フィールドワーカーはメディアをこう使いたい@ケニア

㈱グラスルーツウォーカーズの長谷川です。近頃周りを見てみると、本当に色々な方がアフリカやケニアに来ているなー、と改めて思います。ほんの十数年前までは援助関係者が中心でしたし、四十年ほど前には日本人ビジネスマンがアフリカの草の根に踏み込み、イケイケドンドンでやっていた時代もありました。最近新たにアフリカ熱が高まっているものの、ケニアの場合だと1980年代には1000人ほどいたという日本人が今では750人ほどと、人口だけを見れば相対的に後退している現状です。今後人口減の影響をもろに受けて国内市場が縮小し、貿易依存度もOECD加盟国内でかなり低い日本では、この先海外で活路を見出さざるを得ない企業や日本人は増加していくと思っています。この点においても、今後経済成長が期待されているアフリカ、そしてJETROの企業実態調査で三年連続で最も投資先として注目されているケニアの現場情報を伝えることはますます重要になっていくでしょう。

 

とはいえ、弊社の主力事業として考えている日本人向け現地発WEBメディア事業は、これまでサブサハラアフリカで前例のない事業なんですね。日本人の方が管理されている、アフリカを伝える個人サイトやブログがある中、なぜ「現地発メディア」が必要なのか。「現地国内紙や海外ジャーナルでも現地情報が手に入るのになぜWEBメディアを行う必要があるのか」、「そもそも事業として成り立つのか」等々、様々な疑問を持たれている方もいらっしゃるでしょう。私の結論から言えば、現在、そしてこの先の日本企業と日本人に現地情報インフラとしてのWEBメディアは必要不可欠です。今回は弊社がメディアをどのようにケニアで機能させていこうとしているかについてご紹介したいと思います。

 

1.現地日本人コミュニティ活動をさらに円滑にしたい=公共インフラとしてメディア

ケニアには日本人会というものがあって、多くの催しやイベント、サークルや部活動を通して相互の交流に貢献しています。しかし、フィールドワーカーとして日本人コミュニティを見た場合、属する集団によってコミュニティが細分化(分裂化)しており、あっちで知られている情報がこっちでは全然知られていなかったりすることが多々あります。また、短期滞在者がメインのため、コミュニティとしての共有知がなかなか蓄積、共有されません。たとえば自分が所属している会社や組織あるいは仕事(職種)の関わりのある周辺の人とだけコミュニティが形成されており、会社や仕事以外では中々交流がないことです。これはある意味当然で、こちらで業務に励んでいる方は基本的に多忙で仕事がバンバン入ってきており、そこに割かれる時間も多い。コミュニティ内での結束が強まる一方でコミュニティ外との交流時間が少なくなってしまいます。そうすると、日本人にとって有意義な情報があったとしても細分化した一部のコミュニティの中で留まってしまうことがあるのです。

具体例としてはナイロビで日本語対応の医療が受けられる病院があるにも関わらず、日本人の間で広まっていなかった事例です。私が作成した記事があるので参照ください。

http://afri-quest.com/archives/14286

Forest Japanには日本人スタッフが駐在し、最先端の医療機器もある。ケニアで健康や医療問題は、現地に住む日本人にとって重大な問題です。しかし、担当者の方からは「認知度が低く、日本人利用者が伸び悩んでいる」とご相談を受けました。上記記事を公開後は日本人利用者も増加し感謝していただいたのですが、おそらく定期的な情報発信をしなければ以前の利用者数に戻る可能性もあるでしょう。したがって、ケニアにいる、あるいはこれから来るという方が先ずチェックするメディアとして弊社のWEBメディアを確認するというような体制を作り、公共の(誰にとっても)利益になる情報の発信と共有、そして蓄積が行われる公共インフラとしてのメディアを作ることにより、在ケニアの日本人が不安を少なくしたり、よくある問題への対処法などを共有することが必要なのです。

2.学術研究・一次情報を発信したい=根拠としてのメディア

いきなりですがケニアでどんどん平均(名目)賃金が上がっていることをご存知の方は多いのではないでしょうか。法律で定められた最低賃金を物価上昇に対応して上昇させ、被雇用者の生活を守るためうんたらかんたらとか聞くときもありますね。下記リンク先の研究では、2009年に平均(名目)月収が31,932シリングだったのが、2015年には50,356シリングまで上昇しています。これは経済成長の証!中間層市場も期待できるぞ!…とは単純にはならないのがマクロ経済なんですね。では、この情報を知っている方はどれだけいるでしょうか。同レポートによれば、賃金労働者の平均実質賃金はほぼ横ばいで、2009年に平均(実質)月収が31,291シリングだったのが、2015年には31,382シリングとほぼ変わっていません。興味ある方は下記リンクのp15を参照ください。

http://www.ieakenya.or.ke/publications/research-papers/how-kenya-is-failing-to-create-decent-jobs

これ、結構重要なデータでして、それだけ物価上昇率が高いんですね。当然可処分所得も変わらない。消費に割ける金額も変わらない。更に重要なのは、これは法律によって保護されている賃金労働者の間の数字であって、残り83%のインフォーマルセクターの労働者ではむしろ可処分所得が下がっている可能性が極めて高い。こうした市場に中間層の伸びを期待して投資したとしたら、おそらく事業計画が破綻する可能性が跳ね上がると考えています。

これは学術研究側からの情報ですが、ケニア市場に詳しい、現場も良く歩かれている方から、私は中間層の伸びが順調だという発言を聞き取りしたことは一部市場を除きほとんどありません。ネスレのケニア撤退とその経緯はそれらを裏付ける情報と言えるかもしれません。社会実態を反映した統計情報は現場の肌感覚と一致することが多いです。だからこそ、信頼できる数字と現場の一次情報を根拠にすることで、実態に即した事業なり活動を展開することが求められています。アフリカ統計の脆弱性はあちこちで指摘されていますし、現地メディアの情報に対する信頼も高いとはいえない。弊社では信頼できる統計情報に基づいた一次情報を軸に確度の高い情報を提供していければと思います。

 

③日本×ケニアの活動を促進したい=触媒としてのメディア

私も参加したTICADⅥがナイロビで開催されて早二年が経ちます。日本企業あるいは日本人のアフリカに対する関心は間違いなく高まっている一方で、実際にアフリカで何か事業を起こしたり活動を開始するという動きはまだ限られていると考えています。お金もある、人材もいる日本とアフリカを繋ぐ上で何が決定的に欠けているでしょうか。私は情報とコネクションだと考えています。現地大手メディアを見ても現場の肌感覚、あるいは普通のアフリカ人の生活感というものが伝わってくることは稀です。彼らにとって当たり前の情報で、わざわざ伝える価値がないためです。しかし、これから現地で活動しようという日本企業や日本人にとってはその感覚や情報こそがとても重要ではないでしょうか。実際に現場を歩いてみて、生活をしてみて初めて分かることが沢山あるためです。

とはいっても、態々現地に赴きいきなり何かを始めることは依然としてハードルが高いし、コストもかかる。それならば可能な限り現場の情報を伝えて、「現場感覚を伝えられるメディア」があればこうしたハードルをクリアできるのではないかと考えています。アントレアフリカの支援者の事例でいえば、彼らは直接事業を起こし、雇用を生み、現地に貢献しています。これを仮に直接貢献型のアプローチであるとするならば、弊社が目指すところはより現地参入のハードルを下げ、より多くの日本人や日本企業が挑戦できる環境を整え、必要な情報を提供することで事業・活動成功の可能性を上げることです。これは間接貢献型のアプロ―チに当たると考えています。

今回のアントレアフリカ支援プログラムへの応募者は現在16名です。日本の人口が1億人以上、アフリカの国数が54(または55)ヵ国。この応募人数を多いとか少ないとかは言えませんが、「アフリカで挑戦をしたい」と思っている方はもっと多いでしょうし、これからアフリカで挑戦される方は更に増えるでしょう。特にケニアは日本人にもなじみ深く、これから更に多くの日本人が活動する舞台になると考えられます。だからこそ、公共インフラとして、根拠として、そして触媒としてのメディアを整備し、現地における生活の部分から事業・活動の部分まで現場に基づいた情報を提供する情報インフラを機能させることは社会的に重要な役割を担うでしょう。

 

弊社WEBサイトがもう少しで公開可能になるので、次回は実例もあわせてご紹介できればと思います。長文お読み下りありがとうございました。