ルワンダ人でタイ料理屋3 本場の味への道のり:後編

金銭面から外食、ましてや異国の料理を食べる、という経験などないルワンダ人スタッフが、どのようにタイ料理を習得していったか、についてのお話です。

 

基本的にレシピは全部私が決め、実際に作るのはルワンダ人スタッフです。

彼らからすると、思いっきり異国の料理。タイという国自体、知らなかった人もいるくらい。(それでいうと日本の位置を言えるルワンダ人とか少数派です)

よく見ると日本が大陸と地続きになっているアジアの地図

よく見ると日本が大陸と地続きになっているアジアの地図

 

まずそもそもルワンダの人たちは、どんな食生活を送っているのか?

都市キガリの実感地で言うと、
フルーツや野菜は豊富、収入のある人は一日二回の食事をとれていて、
「飢え」のイメージとは程遠い。

ただ、例えばペットボトルのコーラを買える人はお金持ちだし、外食ができるのも富裕層に限られる

先日インスタでもアップしましたが、
Asian Kitchenの例えばランチセットで一番安価なカレーセットでも、スタッフの日当を超えています。

あああ

日当超えのチャーハン。時給ではありません

地方では、自給自足で暮らす人が多く野菜は各家庭にあります。
でも、塩がなかったり、油がなかったり。

 

WHOで働く方に伺ったお話しだと、

ルワンダの3人に1人の子どもが慢性栄養失調。たとえば芋は畑でどっさりとれるけれども、それだけ食べていても栄養素が十分ではありません。発育不良になったり、脳の成長が遅れたり。

またお肉が食べられるのも富裕層に限られ、一個約0.1ドルの卵は高級品なため、低所得層は「自分で食べるものではなく、お金に変えるもの」という意識があるそうです。

 

ちなみに私はここに来るまで、アフリカの食糧事情といって思い浮かべる、とある一枚の有名な写真がありました。

ハゲワシと少女

「ハゲワシと少女」

この写真にまつわる報道、人道についての論争は当時は知りませんでしたが、
何かの紙面で見たその写真は、遠く離れた日本の小学校低学年の子に、その後20年くらい?そのイメージを植えつけるほどのインパクトが、確かにあったんですよね。
今でも、アフリカ=飢餓のイメージのある日本人は少なくないと思います。

アフリカが一括りになってしまっていることと、全然アップデートされていないことが象徴的ですが。

 

話を戻して、ではルワンダ料理ってどんな料理??

食材は芋、キャッサバなどの炭水化物、
調理方法は炭で起こした火で煮る、
味付けは塩orマギーorトマトソース。

基本的はこれ。だいたいこれ。昼も夜もこれ。毎日これ。
朝はパンでお昼にパスタを食べたら夜は和食か中華が良い日本人からすると、超飽きます。

地元の飲食店のビュッフェはどこもこんな感じです。みんな超大盛り食べます

地元の飲食店のビュッフェはどこもこんな感じです。みんな超大盛り食べます

ちなみにルワンダはお芋が美味しいです!
(そのせいかこちらに来て体重が激増ですがそれはまた別のお話)

うちのスタッフはまかないはルワンダ飯(るわんだめし)です。
人気店のまかないって、ちょっと邪道だけどたまらなく美味しくて、知る人ぞ知る裏メニューがついにメニュー化されました的なやつあるじゃないですか。

あれやりたいんですが結構難しいです。でもイノベーションはコンビネーションから生まれますからね。

これは彼らの要望です。「タイ料理はいらないから芋を煮たい」と。

売上の多い月は、ウガリになることも。キャッサバ粉を練ってつくるものです。

ソースは毎日同じだけど芋がウガリになるだけでテンションアップ!なスタッフ

芋がウガリになるだけでテンションアップ!なスタッフ。ソースは毎日同じです

こんな風にルワンダ人は、割と新しい料理に消極的だと感じるのですが、
それはきっと国民の多くが
他国の料理を楽しむという習慣が金銭面からない点と、
塩味のみの味付けに幼い頃から慣れ親しんでいる点が大きいのではと個人的には思っています。

少ない栄養分からの吸収効率とか実はあるのかもしれません。

アジアンキッチンのお客様の2割ほどがルワンダ人ですが、
話を聞くと海外経験があり、
NYで好きなタイレストランがあったとか、
UKで食べたことがある、
とかそういう人たちが多いです。

そんなこと一つとっても格差を感じたり。

たいていのルワンダ人は、外食で食べたいものはフライドポテトとハンバーガーでしょう。(もちろんマックなどありません)
さてそんな彼らにタイ料理のコックになってもらいます。

トレーニング実技初日。
コック経験者ですからね、座学も挟んだし、一旦ベーシックなレシピを渡してそれ通りに作ってもらいますか…
というヨミがおお甘でした。

・「レシピ」に基づいてつくる
・計量する
・時間をはかる

という観点がない。

ココナッツミルクが1缶にナンプラーが20ml、砂糖が15gで塩が小さじ1、
炒める順番はこうでこうでこう、
全部ルワンダ語で紙に落としてあるのですが。

誰も計量してない!
全部雰囲気で入れてる!
手順も全く無視!
ていうかレシピ読んでない!

すごい全員まったく違うものできた!

トレーニング序盤。この後 壁がマニュアルで埋め尽くされます

トレーニング序盤。この後 壁がマニュアルで埋め尽くされます

何事も準備が大切!
キューピーさん(スポンサー様です!)の3分クッキングだって、全部下準備がしてあるから3分で終わるんです!
とにかく基本の説明をひたすら繰り返す毎日が始まりました。

最初に材料を計量してから調理する、
火をつけるまえに、ココナッツミルクの缶はあけておく、
大匙と小さじはテーブルにちゃんといつもセットしておく、
タイマーはこう使う、
そこ勝手に人参食べるなぁ!
などなど…

前職ではどうやって作ってたの?レシピとかなかったの?

はい、なかったそうです。全メニュー、シェフの気まぐれなんとかってやつでしょうか。

 

それでもどーにかこーにか一緒に作ってそれなりにできたものを試食すると彼らの反応はたいてい

I don’t like this.(真顔)

・・・

ええ、塩味のみ、からの、
パームシュガーの甘味とナンプラーの塩味とスパイスの辛味・苦味とタマリンドの酸味とシーフード系の旨味のハーモニーやー(あの人まだいるのかしら)
ですからね。
とりあえず一旦いいです。
一旦いいんでとにかくレシピ通りにお願いします

というところからスタートして9ヶ月。

やはり「レシピを忠実に守る」
というのがなかなかできず、私も当初はずっと目を光らせていましたが、
今では、ちょっと私が出ていた隙になんじゃこりゃぁ!!みたいなものを作っている、
ということはだいぶ減りました。

どうやってここまできたか、無我夢中過ぎて覚えてませんが、
とにかく、紙に落とす、
写真にして貼る、
やってみせる、
うるさく言い続ける、
これを9ヶ月続けて、
今では彼らの方が私よりもレシピを正確に覚えています。

外食したことも、ましてやタイ料理を食べたこともなかった彼らが、
「ちょっと今日は味がおかしい気がする、味見してもらえますか?」なんて聞いてきたり。

また、手に入るブランドが安定しないので、実際味や食感がぶれますが、
そんなところも調整の提案をしてきたり。

今日は、アジキチのメニューを、社割で買いたいという申し出があり、あら嬉しい。タイカレー嫌いって言ってたのに。

改めて、アジキチスタッフ、毎日頑張ってます!!

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