ルワンダの宗教と「食」
TICAD、いよいよですね。ルワンダでは、正直あまりそれを感じません。「アフリカ」とひとくくりするのはかなり無理があると、こちらに来ると実感します。
開催国はお隣の国ケニアですが、発展度が全然違うなと、こちらのみなさんの記事を拝見していても思います。
よく間違えられる「ウガンダ」も、都市部の様子ひとつとっても、発展度が全然違います。
ルワンダはまだまだマーケットが小さいです。

本日ものどかなルワンダ。道は舗装されていてキレイです。
今回のトピック「宗教」に関しても、「アフリカ」の宗教というと、北アフリカで近年邦人の方が巻き込まれるイスラム系テロ事件が相次いだことから、そのイメージが強いかもしれません。
実は私も初めて来るまでは勝手にそんなイメージでした。
ルワンダは統計上は、人口の9割以上がキリスト教、(カトリックが一番多く次いでプロテスタント、その他)イスラム教(ほぼスンニ派)が1割以下となっていますが、ムスリムのほとんどが都市部にいると言われていることもあり、
首都キガリではムスリムの人が割と身近にいる感覚です。モスクもあります。
ルワンダの公式な祝日として、キリスト教のものもあれば、ムスリムのものもあります。
Asian Kitchenでは約15人中3人、自宅で働いてくれているナニーさんの中では1人、ムスリムです。
日本で暮らしているとあまり宗教を感じることはありませんが、ここで飲食店をやっていると、
カスタマーに対しても、スタッフに対しても、宗教というのは確実に考慮すべき要素の一つです。
1. 対カスタマー
Asian Kitchenのコンセプトの一つはHealthyであることで、ベジタリアンのお客様、グルテンフリーやオーガニックなどへの気遣いは欠かせません。
もう一つが「ハラル」。
ムスリムの基準をクリアしているものです。最もメジャーなもので、豚を避けています。
海外の飲食店ではよく「ハラルマーク」がメニューについていますが、Asian Kitchenでも、ハラルメニューかそうでないかは、お客様へ明確に説明できるよう、マニュアル作成の上スタッフへの周知徹底、分かりやすい表示を心がけています。

ムスリムが起源とも言われるマッサマンカレー
また、イスラム教徒の方だけではなく、ヒンドゥーの方がビーフがNGだったり、その他ニンニク食べません、玉ねぎ抜いてください、等々のご要望をいただきます。
お客様一人ひとりとのコミュニケーション、それをキッチンへ確実に伝えることが大切になります。(言うは易し)
関係ないですが、特にインド人の方々は、メニューにないものをオーダーすることが多いです。ラストオーダー終了後にメニューを見ずに「野菜炒めとチャーハンとゆで卵」とか。どれもないです。が、基本ウィームーッシュ。です。
なかなかチャレンジングなご要望が多く、反応もはっきりしているため、インド人の方に褒めていただけると結構嬉しかったり。
ちなみにルワンダでタイ料理は当店だけですが、インド料理店、中華料理店は多いです。彼らは日本人よりも圧倒的に数が多く、現地人を雇用せずにビジネスを成り立たせるほどコミュニティが巨大で、印僑・華僑の逞しさをここルワンダでも感じます。
2. 対スタッフ
食べ物に関して、そしてシフトに関して、考慮ポイントがあります。
まず食べ物に関して。
ムスリムは豚肉がNGです。最初に採用したコック、アラファト氏がムスリムだったこともあり、当店には豚肉料理が一切ありません。

アラファト氏。金曜日は全身白の時もありますが、今日みたいにラフなことも。でもターバンは白です。こだわりのグラサン
最近までミルクプリンにゼラチンを使っていたのですが、それもアラファトは作ることができませんでした。(基本調理はトレーニング後はすべて現地スタッフが担当します)
今はアガーに切り替え、ムスリムやベジタリアンの方にも召し上がっていただけますし、アラファトも作れます!
最初はアジアンポークスペアリブも検討していました。醤油、ナンプラー、はちみつでぐつぐつ煮込んで、これがまた美味しいんです・・・が、豚肉を茹でる湯気が彼の方へ流れるだけでかなりつらそうでしたので、一旦見送りました。
一時期ラーメンを検討して(タイ料理屋なんですけどね)豚骨スープを研究していた際の、彼の行く末を案じる表情はまたなんとも言えない感じでした。
ちなみにルワンダでは、鶏肉、牛肉、豚肉で、鶏肉が一番高級です。
スーパーで、鶏肉は骨も含んだkgあたり1,000円近いですから、可食部を残すとますますコストがかさみます。一方牛肉は半額以下です。
日本よりは安いですが、この国の物価からすると劇的に高く、鶏肉を日常的に食べるルワンダ人はほぼいません。ちなみに卵も高級品です。
でも鶏肉が一番ヘルシーですからね!そこは当店の大切なコンセプトです。
鶏肉が高いのはシンプルに、ブロイラーがほぼないからです。
輸入も地理的・コスト的に厳しいです。
ブラジル産鶏モモ肉特売とか、地球の裏側でとれたものが安く並んでいた日本のスーパーが懐かしいです。
そしてお酒。
とあるスタッフにビールを至急買ってきてと指示を出した際拒まれ、突っかかりそうになりましたが、
宗教上お酒を運べない。とのこと。
それは仕方ない。自分買ってきます。
ただ人によって、食べるのはNGだけど調理はOK、直接は触れないけど間接的に触れる、サーブはできる、サーブも無理、など差があるようです。
次はシフトに関して。
面接の際にまず確認することは、土日が働けるかということ。
もちろん宗教をダイレクトに聞いたりはしませんが、土曜日はアドバンテスト(プロテスタントの一つ)、日曜日はキリスト教の人は教会へ行くので、人員が不足しがちなのです。
毎週日曜日は、教会へ向かう人、帰る人で街には人の列ができています。
教会からは時々、結構な爆音でリサイタルのようなものが聞こえたりします。教会へ行くときはみな正装したりおしゃれをしたり、一種エンターテイメントの要素もあるようです。
一方ムスリムはこの点土日働けることが多いので、土日も稼働日の当店で、世の中平均よりもムスリム比率が高まるのかもしれません。
また、ムスリムは祈りの時間があります。
あーまたさぼってるな…と裏に回って注意しようと思ったら、お祈り中だったということもしばしば。
でもこれキリスト教の人に不公平って言われたらそれはそれで難しいなぁなんて思っていますが。
先月はラマダンがありました。
ラマダン中は、飲食店で働くムスリムのスタッフは辛そうです。
そして毎日味を彼らにもチェックしてもらっているのですが、「ラマダン中なんで」ってことで味見できず…結構困ります。
このような感じで日々の接客・オペレーションに宗教はかかわってきます。
私自身、時々宗教を聞かれることがありますが、その時に「特にないです」とは答えないようにしています。(実際私は洗礼を受けているわけでもどこかに入信している訳ではないのですが)
「神を信じていない」ということが、宗教を当たり前にもつ人にとってはきっと不思議なことなのでしょう、
人格を疑いたくなる感覚もあるのかもしれません。
神への信仰なしにどういうつもりで生きてきて、そしてこれから生きていくのと問いただされたことも。
いつか社員が、「あの人は自分と同じ教会仲間だから信用できる」というようなことを言っていて、
一種の身分証明のような役割もあるのだなと感じました。
実際このあたりは私はまだうまくアイデンティティを説明できません。
ただ、今度世界が再編されていくとしたら確実に宗教がその重要な役割を果たすだろうと思われる今日この頃、ハテ息子にはどう感じさせていこう、説明していこうと時々考えます。
なかなか答えは出ませんが、いろんな宗教の人が自然に周りにいる環境は、プラスに働くのではないかな、と漠然とですが思っています。

アラファト氏の特技:揚げ油の温度を素手でチェック
唐渡千紗