もりかけ問題どころではないケニア①
「成功のカギ? 賄賂だ。それ以上でも、それ以下でもない」
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今年前半から日本のニュースを騒がせている森友学園・加計学園問題。金銭の授受が無かったとしても、権力者の恣意によって特定の集団を制度上優遇することが許されて良いのか?行政ルールに基づいた意志決定がなされたのか?といった疑問から、国民の注目を浴びたものと思います。
翻ってアフリカはどうか?個人的な印象ですが、アフリカの政治というと、モブツ・セセ・セコ時代のコンゴ民主共和国を初めとして、政治・行政関係の汚職が蔓延しているというイメージがありました。みなさんもおそらくアフリカの政治行政が少なくとも公明正大に行われているという印象はないかと思います。
政治的安定性と透明性から「アフリカの優等生」と言われているボツワナ共和国ですら、私の駐在時代に現地政治家に対する賄賂まがいの話を見聞きしたのですから、その他のいわゆるbad governanceの呼び声が高い国々における状況は押して図るべしという感じです。
一方で、じゃあ実際のところはどうなのか?日々の生活にどう影響しているのか?という肌感覚はあまりありませんでした。それが、この夏2カ月のケニア滞在でなんとなく輪郭が見えてきました。
この夏の現地調査の大半は、顧客候補に対してインタビューを行い、想定している課題が本当に存在しているかを見るものでした。私の事業コンセプトは「相見積もりを瞬殺で終わらせる」なので、そういった作業を良く行う問屋系のビジネスが顧客対象となります。30社くらいをインタビューしたところで、あることに気が付きました。同じような事業内容・商品ラインナップ・人員数にも関わらず、一部の会社は売上規模が突出していたのです。
顧客対象としている会社の規模感は社員2-3名で、売上は100万 Kenya Shilling/年前後というのが相場観なのですが(1 Kenya Shillingは1 日本円とほぼ同じ価値)、中には数百万Ksh、すごいところだと数千万Kshというところが稀に出てきます。ビジネスモデルとしては同じことをしているのになぜこんなに差が出るんだ?と気になり、従業員3名ながら5千万Kshという会社に出会った時に聞いてみたのです。
君の会社は他の会社と比べて突出して成功している?その理由は?
「成長のカギ? 賄賂だ、それ以上でもそれ以下でもない。」
その会社は中央・地方政府の調達案件が事業の大半で、曰く、「勝負は全て賄賂で決まる」とのこと。どのようなプロセスで進むのか?
①契約先の選定
政府の調達は、法令に則り、表面上は全て公開入札で行われることになっています。調達の情報は政府の官報ホームぺージ(IFMISと呼ばれるポータルが存在している)や民間のポータルサイト(TendersUnlimited等の大手サイトが存在している)、または、大手新聞の広告欄に毎日のように掲載され、巨大案件の獲得を夢見て多くの業者が応募します。しかし実態は、入札情報公開した時点で既に発注先は決まっており、公開入札の形を取るのは、あくまで見た目上法令違反にならないようにフリをしているだけなのです。
誰に発注するかは、もっぱら調達担当が決めることが出来ます。そして、この調達担当とどれだけ関係を築いているか、そして、その案件毎にどれだけ金銭的利益を渡せるか?がカギになるのです。関係構築というのはまさにこれまでの賄賂の実績で、調達担当の財布を潤わせてきた会社には優先的に声がかかり、その中でも多くの賄賂を渡せる会社に契約が回ります。
②契約金額の妥当性の確保
賄賂という余計なコストがかかるわけですから、当然契約金額は市場価格に比べて高止まりします。そもそも公開入札を行う理由の一つは、価格の妥当性の担保なわけですから、賄賂を上乗せし、市場価格から逸脱した契約金額は問題になるはずです。政府内にも価格の妥当性を検証する部署があり、「形式上は」そこの許可を得ない限りは購買契約は結べないことになっています。
しかし、ここでも賄賂が必殺兵器として活躍します。価格の妥当性を検証する部署にも金を渡すのです。そうすることで、いかに市場価格と合致していない価格水準であっても許可を通すことが出来ます。ここでもある種の信頼関係が大事でこれまでどれだけその担当者にカネを落としてきたかという実績がカギになります。
③納入後の入金
財政上の問題か、行政の非効率が問題か(もしくはその両方か)ははっきりと分かりませんが、ケニア政府は非常に金払いが悪いと言われている。ひどい案件だと納入後2年も入金がこないこともあるようです。2-3名程度の小さな会社にとって入金の遅れは死活問題なので、いち早くお金が欲しい。こういう時にも賄賂が活躍します。資金支出を担う財務部門の担当者に賄賂を渡すのです。こうすることで、彼らが抱える他の支出項目に先立って入金を受けることが出来ます。
そんなこんなしていると、賄賂の規模はどんどん膨れ上がります。私がインタビューしたある業者は、原価20円/本程度の鉛筆1万本を100円で売りさばいていました。そのうちの半分以上が賄賂に消え、残った30%程の利益をその業者が享受するのです。ここまで多くのステークホールダーに後半に賄賂をしていくにはそれなりの人脈が必要で、事実この業者の経営メンバーの一人は現ナイロビ市長と懇意な関係にありました。
ところで、私がケニアに6年ぶりに降り立って一つショッキングだったのが、道路のインフラが殆ど進歩していなかったことです。私が滞在していたWestlands地区は、ナイロビ近郊でも比較的富裕層の多い、裕福な地域と言われています。それでも、アパートの前の歩道はほとんど未舗装で、土や岩がむき出しになり、気を付けて歩かないと簡単に捻挫をしてしまいそうなクオリティーです(ちなみに同じ道路沿いにドイツ大使館がある)。
一定のGDP成長率がありながらなぜ道路一つ綺麗にならないんだ?と疑問に感じていましたが、おそらく、政府支出の多くがこうした賄賂として漏れ出て、本来公共財に使われる資金が棄損されているのだと思います。
ちなみに賄賂の実態が分かってから、インタビューをするたびに「賄賂を要求されたり、したりしたことはあるか?」と必ず聞くようにしたところ、90%の確率で、「YES」という回答が返ってきました。まさに日常、いたるところに賄賂あり、といった様相です。
もりかけ問題どころではありません、ケニア。