『ティール組織』という本をどう扱うか?
ウガンダで宅配事業をしている伊藤です。
突然ですが、ティール組織をご存知でしょうか?
(今回はウガンダの事業とは直接的に無関係の内容です)
『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』
2018年1月に英治出版から和訳版が出版され、日本でもベストセラーになった本。
新しい組織の形だ!と注目され、従来の組織モデルが抱えてきた問題点を克服できる可能性があると注目を集めている組織の在り方を問う本です。
私も2018年後半にティール組織を読み、大きな衝撃を受けました。
今までの常識を覆す組織運営を謳っており理想論を述べているだけ?という内容から、実際の12の大小様々な形態の組織での実例が紹介され、自分の常識を大きく覆してくれました。
こんな組織経営、組織体制があるのか!成立するのか!と驚く一方で、
ふと自分の経営する組織に当てはめた時に、あまりに前提やバックグラウンドが違い過ぎて、どうしたら良いのだろう?と感じていました。
ただ、そのままでは終わらせたくなかったため、事あるごとに起業家や経営に携わる友人と議論し、少しですが社内でも試行錯誤をしてみました。
が、あまりの前提の違いに、社内では対話にすらなりませんでした。。挫折以前の問題でした。
さて、あれから二年。
コロナ対応をきっかけに内省の機会がぐっと増えました。
市場環境の変化(外側)と経営体制の変化(内側)の両方に適応し、今後の時流に乗るために、色々な角度から世界を眺めています。
ティール組織についても、改めて考える機会を得る事ができました。
ティール組織に影響を受け、実践している方々の話を伺う中で、皆さんも似たような課題を感じていました。
『対話をしても、自主的に手を挙げてくれる人がいない。手を挙げる人がいないから、こちらからお願いすると、やらされ感になり、そもそもの自律性が崩れる。』
『ブレストして色々意見は出てくるが、そのアイデアを推進しようって人が出てこない。責任を取りたくない。と言われる。』
『そもそも、ティール的な考えを紹介しても、賛同が得られず反対意見が多い。とりあえず、やってみようよ!と強引に進めようとすると、それこそ、トップダウンになり本末転倒』
などなど。。
改めて、自分の常識を覆してくれる良書だなと思います。
改めて”ティール組織”という本とは?
良書ではあるのですが、あまりに常識から離れていて、コンセプトや概念だけが独り歩きしてしまい、色々な弊害が出ているように思います。
ティール組織という本は、シンプルに、あくまでも組織運営の常識を覆した組織を紹介する”事例集”として扱った方が自然なのではないでしょうか。
これまで慣れ親しんできた組織運営に内在する様々な問題。
その問題を、これまでの常識を覆す事で乗り越えてきた素晴らしい12の組織。その事例のケーススタディ。
ケーススタディーなので、時代、地域、セクター、利益構造、リーダーの特性によって様々。
ただし、あまりに常識からかけ離れているため、そのまま紹介しても『特殊な事例だね。』と見向きもされない。
そこで、著者のラルー氏は共通点を探り、普遍性を導き出そうとして、3つのキーワード(存在目的、自主経営、ホールネス)を紡ぎだし、整理していきます。
さらに、この3点を全て完璧に抑えている必要はなく、一つでも徹底的に実現出来ていればティール組織と言える。と説きます。
ティール組織がベストセラーになり、多くの方に衝撃を与え、単なるブームではなく、ムーブメントになり得たのは、まさにラルーさんが『ティール組織』という名付けをして、3つの要件(ポイント?)があると要点を紡ぎだしたことにあるのでしょう。
”ティール組織”と名付けた弊害
一方で、オレンジやグリーンの先にある全く別の組織形態としてティール組織を位置づけ、3つの要件に整理した弊害も多かったのではないかと思います。
ティール組織の中でも、一つの組織を一つの色に区分する事はできないし、分類する事の意味もない。と言われていますが、こういうキレのある分類を見せられてしまっては、オレンジやグリーンに整理したくなってしまいます。
また、あくまでも3つのキーワードとして整理しただけにも関わらず、それが要件のように独り歩きしてしまった感は否めません。
どの組織もこの3つを考えて目指してきたわけではなく、自分達の理想の組織を作ろうと試行錯誤してもがいてきた先に具体的なプロセス、チーム、オペレーションが生まれて、それに対してラルー氏が『これこそが存在目的から来るものだよね』と後付けで分類したに過ぎません。
これまで親しみのある組織を段階(レベル)別に整理し、その上位概念としてのティール組織を謳う事で、私も含めて多くの人に広まる機会を与えてくれた一方で、
ティール組織自体が独り歩きして自己目的化していることの弊害も多いです。
このように名づけをして、定義をすると、人は少なからず、お手本を目指そうとします。
が、ティール組織というお手本があるわけでもなく、それに向かおうとするから混乱する。
単なる読み物として扱うのであれば、それでもいいのですが、
実際にこの本を参考にして自分の組織を変えていこう!と実践するものにとっては、一旦引いて考える必要があります。
例えば、ティールを共通解として扱うと、以下ような質問になります。
『ティールにおいて、経営者・リーダーは何をすればいいのか?』
当然ですが、ティール組織では経営者はこうあるべき。なんて答えはありません。
そもそも、全く違う生き物(組織)で、全く個性の違う経営者がいる時点で、こうしたら良いという答えはありません。
それこそ、自分の組織、構成員、リーダーの環境で、自分達の目的を描いていくほかありません。
『存在目的はどう作ったら良いのか?浸透させたらよいのか?』
”存在目的”という概念に整理したのはラルー氏であり、概念の理解としては非常に役に立ちますが、
自分が実践する立場の時に、”存在目的”という言葉にあまり囚われると本質を見失います。まして、ブレストで『うちの存在目的とは何か?』なんてお題をつけたら余計に混乱します。。
こんなこと言われなくても分かってるよ!と指摘されそうですが、一旦この整理をする事で、
このような問いが的外れなのだと気づきます。
自分の価値観を崩すインプットとして、『この組織はこう考えて、こういう失敗をして、こうしたら上手くいったらしいよ。でも、ここは苦労しているみたい。』という生身のある事例に向き合う事が大事であり、抽象度を上げても余計に混乱するだけのように思います。
教科書ではない。
『ティール組織はボトムアップであるべきだ。』
『ティール組織では、現場にもっと権限を持たせるべきだ。』
など
『~べきだ』という発想も見当違いだと分かります。
こうすべきなんて事はなく、
考えるべきは、うちの組織にとっての理想は何か?の追及です。
同じく、
『要は、フラットな組織にすればいいんですよね?』
『要は、現場にもっと自由で働いてもらう事なんですよね?』
『要は、皆が自分に合った役職で生き生き働くことなんですよね?』
のような、『要はxxx』というのも見当違いです。。
本を読み始めて、ティールって何?って考えているフェーズでは、整理しながら考えていった方が理解が深まりますが、
実際に自分の組織に向き合った時に、この概念化、一般化、抽象化の行為は、自己目的化に繋がります。
12の事例で示された組織が理想形で、その組織を目指そう。と、組織作り自体が自己目的化したり、
ティール組織に書かれている3つのポイントを教科書的に扱ってしまったり、
ここに書かれた組織を目指す。こうなったらいいよね。的に目的化する、教科書みたいに扱ってしまう事に元凶があります。
箱の外に出るためのインプット集として捉えるくらいが良い
挙がっている事例は、どれも自分の常識からかけ離れているもの。
自分の組織やチームとは前提条件が異なり過ぎるからこそ、容易に思考停止して理想を求めようとします。
ただ、組織は機械ではなく生き物。
ティールとは組織を機械ではなく生き物のように扱う事。
にも拘らず、『こうあるべき』『この要件を満たす必要がある』のように、機械的に扱おうとします。
結局、具体的に取り組んでみた時に役立つのは、一つ一つのケーススタディーの中に埋め込まれている実例の数々。
そして、実際に取り組んでいる人たちの苦労話、失敗談と、そこからの成功事例。
『xxって組織は、こういう風にやってみたら、給与体系と評価体系を区別できたみたいよ。報酬決定権限とモチベーションとしての評価を切り分けられたみたいよ。』
という具体例の数々なんだなと改めて気づくことができました。
実践にあたり、ティールという言葉から離れ、3つのポイントから離れ、
まずは自分の観点で、12のケーススタディーを参考に考えていく方が上手くいくなと思います。
具体的には?
具体的にどうするのか?シンプルに以下の3つでしょうか。
1.小さくてもいいから、実践で試行錯誤を繰り返す。そこから気づき、学びを得る。
2.その学びと気付きを、同じように実践してきた人同士でシェアする。抽象概念ではなく、具体的事例としての学びの共有。
3.迷った時のインプットの一つとして、『ティール組織』の中に書かれている具体的な事例を読み返し、インスピレーションを得る。(インプットなので、本を読む以外にも色々あると思います。)
に尽きるのかなと思います。