ストレスを飼いならす~HARD THINGSのストレス・マネジメント~(前編)
ウガンダで宅配事業をしている伊藤です。
(先日、個人のNoteで書いた事を転載します)
ウガンダで起業して6年半。
人としても成長できたと思っているが、その一つがストレスへの向き合い方だ。
最近、色々な人にストレスマネジメント・メンタルケアについて聞かれることが多い。
良い機会なので、文章に纏めたいと思う。
はじめに:起業家のストレスマネジメント・メンタルケアの重要性
ハード・シングスという言葉を聞いた事があるだろうか?
『ハード・シングス 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』
シリコンバレーの投資家であり元起業家のアンドリーセン・ホロウィッツが、壮絶すぎる実体験を通して得た教訓を綴ったベストセラー本だ。
起業すれば、多かれ少なかれ、会社が窮地に陥るような問題に直面する事がある。
僕は起業する前は、外資系のコンサルティング会社でコンサルタントとして働いていた。
昔からストレス耐性は高く、周りが鬱で倒れるようなプロジェクトでも自分はメンタルを崩さずに乗り越えた経験もある。
起業する前に、先人の起業家の話を聞き、『大変な世界だなぁ』と思いつつも、『実際にやってみないと分からんし。まぁ大丈夫でしょう。』と考えていた。
実際に起業してみると、想像を超えていた。
それまではサラリーマンで固定給が入ってくる生活。定期的にお金が入ってくる生活は計画的に使えばお金の心配はいらない。
しかし、起業当初、売上も立たないまま、経費・生活費だけが流れていく。
僕は投資を得ずに始めたため、自身の貯蓄だけが頼り。
毎月毎月、口座からお金が減っていくだけでストレスを感じていた。
ウガンダでの生活は、ただでさえ日々上手くいかない事が多くストレスが溜まる。
事業を始めると、日常生活のストレスなど無かったのでは?と思うほどの問題が起こる。
斜め上から飛んで来たり、背後からやってくる問題も多い。
日本でコンサルタントをしていた時には、年に1度起きるかどうかの大問題が、
ここでは月に一回、週に一回と起こるようになった。
2-3個の問題が同時に発生する事も増えてきた。
これが、いわゆるHard Thingsというやつなのだと思う。
Hard Things自体は起業につきものなので上手く付き合っていくしかない。
何が問題かというと、
困難が起きるたびに、問題が起きるたびに、大きなストレスがかかる。精神が不安定になる。落ち込む。思考停止になる。自暴自棄になる。
こんな状態で、困難な状況を乗り越えられるわけがない。
そして何より、楽しくない!
せっかく、安定した収入を捨ててまで、自分の夢を叶えようと起業したのに、楽しくない!
それでは本末転倒だ。。
この6年、ずっとこの問題に取り組んできた。
結果、ここ最近の1年半は、大抵のハード・シングス、ストレスには動じなくなった。メンタルが不安定になる事も無くなった。
一定の域に達したと喜ぶべき事なのか、ぬるま湯に浸かって次のステージに行けていないからなのか、分からない。
ただ、この6年間で、多くの失敗と経験から辿り着いたストレスマネジメント、メンタルケアが世の中の誰かの参考になるならばと思い、紹介してみる事にした。
※以下は一起業家の個人の体験をもとにしたもので、医学的根拠も検証もしていない事をあらかじめ明記しておきます。
僕は精神医学の専門家でもカウンセリングの専門家でもありません。
それでも、ストレスと上手に付き合っていきたい。無理せず長く続けていきたい。と思う方には参考になれば幸いです。
0.大前提として、自分のストレス対応力は高くない事を認識することから
ストレス耐性の事をレジリエンスと言うらしい。
Wikipediaの定義は
心理学におけるレジリエンスとは、社会的ディスアドバンテージや、己に不利な状況において、そういった状況に自身のライフタスクを対応させる個人の能力と定義される 。自己に不利な状況、あるいはストレスとは、家族、人間関係、健康問題、職場や金銭的な心配事、その他より起こり得る 。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%B8%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9_(%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6)
レジリエンスの高さは、人それぞれ。高い人もいれば低い人もいる。個性の一つだ。
生まれながらにして高い人もいれば、
苦労した幼少期を過ごして二十歳になる前に無意識に強さを身に着けている人もいるだろう。
ここで言いたい事は、生来のレジリエンスが高いか低いかは大して重要ではない。
レジリエンスは鍛えられるもの。という事だ。
その上で、生来のレジリエンスが高かろうが低かろうが、そんなものは誤差の範囲だ。
中世・古代の人、戦時中の人ならいざ知らず、先進国の一般的な現代人のレジリエンスの高低など五十歩百歩だ。
自分は元々、(現代人の中では)レジリエンスが高い人間だと思う。
が、いきなり憲兵がやってきて、収容施設に監禁され拷問を受けたり、
アウシュビッツ収容所のようなところに連行されたら、3日もしないうちに精神崩壊するだろう。
どれだけストレス耐性に自信のある人でも、極度のストレス状況におかれたら、数日で精神崩壊してしまう。
一般的な現代人のレジリエンスの個体差など、その程度でしかない。
よく『私は昔からストレス耐性強いので大丈夫です。』という人に出会うが、そういう人こそ危ない。
自分の生来のレジリエンスに頼る事ほど危ない事はない。
ストレス耐性が高いと言っていた人がメンタルに支障をきたすケースを幾度となく見てきた。
その過信が予防を怠り、処置を遅らせたように思う。
ストレス耐性が強いと思っている人ほど、
『他人と比べてストレス耐性は強いかもしれないが、それは大したことではない。自分は弱い。極度の状況に追い込まれたらメンタルの問題をきたすかもしれない。』
と自覚する事からスタートした方が良い。
その弱さを認めた事で、
『では、レジリエンスを高めるためにどうしたらいいか?』の問いに向き合える事になる。
レジリエンスは鍛えられる!!
が、その前に、自分の生来のレジリエンスを過信しない事が最初の一歩だ。
1.ストレスマネジメントとは?
ストレスマネジメントとは、ストレスレベルをコントロールし、上手に付き合っていくための方法や考え方の事だ。
以下の図を見てほしい。

レジリエンス(ストレス耐性)とはゴム紐のようなもの。
普段は弛んでいるが、ストレスがかかるとぐっと引っ張られる。
正常な位置にあれば問題はないが、左右のどちらに引っ張られてもストレスがかかる。
左方向が鬱(うつ:落ち込む方向)、
右の方向が躁(そう:ハイテンションな方向)である。
人生にとって適度なストレスは必要不可欠であり、ストレスが全くない生活では逆に不幸せになる。という研究もある。
しかし、過度なストレスがかかったり、長期間にわたりかかり続けると、心身に大きな悪影響を及ぼす。
このゴムが引っ張られて伸びてしまい、バチン!と切れた状態になると、いわゆる鬱病や躁病という精神疾患に至る。

レジリエンスのゴムも、上手にコントロールしながら徐々に鍛えれば、レジリエンスの幅も広がっていく。
しかし、一気に許容度を超えるストレスがかければバチンと切れてしまう。
左方向(うつ状態)が良くないのはイメージしやすい。無気力で落ち込んでいるので、自分でも自覚しやすい。
しかし、右方向(そう状態)も問題である。ハイになっていると自分でも気づかない事が多い。
アドレナリンが出て火事場の馬鹿力で問題を解決する事は起こる。ただ、その状態が長く続くと、突然ポッキリ心が折れてしまう。
起業家にも多いが、ずっとハイテンションでエネルギッシュに動いてきた人が、突然糸が切れたように倒れるケースを見てきた。
休みなく働き続けて、突然倒れて病院で運ばれたり、疲れ切って倒れてしまう。バーンアウトと言われるものだ。
時にはアドレナリン全開で乗り切る必要性もあるだろうが、張り詰めた状態でずっと走り続けるのは無理だ。長くても数か月程度しか持たないように思う。
左(鬱状態)も右(そう状態)も異常な状態である。
レジリエンスのゴムの引張力を意識的にコントロール出来ればよい。
しかし、起業して会社が大きくなれば、事業が複雑になれば、ハード・シングスのレベルも上がる。
現状のレジリエンス力を鍛えていく必要がある。
レジリエンスを鍛えながら、ストレスマネジメントをするために以下2点を意識している。
1)レジリエンスのゴムを徐々に計画的に広げていき、ストレス耐性を上げていく事
2)ゴムが左にも右にも、必要以上に伸びてしまった時に、早めに認知して戻す手段を用意しておく事。

以下、この二つを実践するために、私自身が具体的に講じてきた方法を紹介したいと思う。
分かりやすさを優先し、ステップに分けて整理した。
実際の問題は、このステップに沿わない場合も多い。自分なりの型を持ち、都度、柔軟に考えるのが大事なように思う。
(中編へ続く)