ストレスを飼いならす~HARD THINGSのストレス・マネジメント~(中編)

ウガンダで宅配事業をする伊藤です。
前回の続きです。

2.ステップ(1):ストレスレベルを計測する

レジリエンスを広げる。超えた時に元に戻す。の二つを実践するためには、大前提として
『現時点のレジリエンスの幅(ストレス耐性)を把握する』必要がある。

日頃から自分にかかるストレスを計測(モニタリング)する必要がある。
『ストレスをモニタリング?そんなの簡単にできないだろう。。』と思われるかもしれない。

確かに、直接、ストレスレベルを計測するのは難しい。
しかし、少し調べれば、世の中には様々な方法が紹介されている。
色々試して自分に合う方法を見つければよいのだが、私自身が続けている方法を紹介する。

分かりやすさの為に、モニタリング対象を①心(感情)、②身体に分けて考える。

①心のモニタリング(感情マネジメント)

大きな問題に直面すると、冷静さを失い、感情に支配される。衝動的になる。突発的な言動が多くなる。
心が冷静でいられなくなる。
理性的に考えようとしても、感情が邪魔をする。

大きな問題に直面しなくても、小さい問題が積み重なり、ボディブローのようにストレスが溜まっていく事もある。
こちらも徐々に理性が失われる。
理性的に考えようとしても、ネガティブな感情に囚われるようになる。

心のモニタリングに有効な手段は、マインドフルネスだ。
マインドフルネスを初めて聞いた方は、ググってみると色々な記事が出てくるので見てほしい。

マインドフルネス(英: mindfulness)は、今現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程であり 、瞑想およびその他の訓練を通じて発達させることができる 。マインドフルネスの語義として、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」といった説明がなされることもある 。


こちらWikipediaよりhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%95%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%82%B9

マインドフルネスの反義語は、『心ここにあらず』である。
マインドフルネス的なアクションを取り入れると、メタ認知と呼ばれる、自分自身を外から客観視できるようになる。

代表的なのは、Meditation(瞑想)。

マインドフルネスという言葉に出会ったのは7年前。当時、シリコンバレーで研究していた友人に相談した時に教えてもらった。
その後、瞑想などに興味を持ち、取り入れていった。
初期の頃は、本を読んで試して、日本にいる時は友人と禅寺に行き坐禅を試したりもした。

その後は、自己流で色々試行錯誤していった。徐々に頻度も種類も増えていき、今ではほぼ毎日10分程度の瞑想が習慣になっている。

瞑想やマインドフルネスのトレーニングは様々な記事や本にも書いてあるので、詳しくはそちらを参考にしてほしい。
色々試す事で自分に合う方法が見つかるのではないか。

(詳しい方からは、坐禅と瞑想を一緒にするな。坐禅と西洋由来のマインドフルネスは違う。という指摘もあると思うが、シンプルにするためにご容赦頂きたい。)

感情の記録。

また、昔から、他人よりも感情的になってしまう欠点があったので、感情を記録する事も試した。

一日の終わりに感情的になってしまったな、イラっとしたな、って事があったら、それをメモする。
最初はどういう状況でどう行動したか。だけでも良い。
次に習慣になってきたら、その状況で、どういう感情が芽生えたか?も記録する。
余裕が出てきたら、週に一度、リラックスしている時に、なぜその状況でその感情が芽生えたのか?を考察する。

考察すると、自分が無意識で行う判断(先入観)や偏見にリーチできるようになる。

同じ状況でも友人はイライラしていないのに、自分はイライラしている。
なぜ、自分はイライラするのか??

探っていくと、友人とは違う過去の体験があり、その過去の体験が自分にある種の先入観を持たせている。
特定の状況に直面すると、相手に悪意はなくとも、反射的に過去の嫌な体験を思い出し、嫌な感情を呼び起こす。

感情の記録とは、その反射的な反応を無意識の世界から意識的の世界に呼び起こし探索するプロセスである。
中々に高度な知的プロセスである。

もちろん、一日に何度もイライラする事もあり、その都度やっていては身が持たない。面倒だし、嫌気がさす。
ただ、似たような事象で怒りを感じたり、悲しみを感じる事が続いたら、意識的に探ってみる良い機会なのかもしれない。
同様に、喜びや嬉しさについても探ってみると、そう状態になる起因も見つかるかもしれない。

自分の感情に向き合う事は決して楽な作業ではない。
何より面倒くさいし、生理的に受け付けない時もある。

僕の場合も、最初は数日で断念。再開して1週間で断念。
毎日ではなく、週に一度にしてみる。
など、試行錯誤しながら繰り返した。

止めたり再開したりを繰り返していたら、
以前よりもずっと無意識にあった偏見や先入観に気づくことができた。

気づくことさえできれば、すぐに行動を変えるまでいかなくても、メンタルコントロールは一歩進める事が出来る。

②身体のモニタリング

心と同様に、身体のモニタリングも有効だ。
どんなに絶好調な時でも、体調不良になった途端に、メンタル含めやる気もパフォーマンスも激減する。
38.5度の熱が出れば、パフォーマンスは1/10以下になるだろう。。
そんな時に大きな問題が起きれば、『やってらんない』と自暴自棄になる。。

身体のモニタリング、身体の声を意識的に聞く事を、Body sensation(身体感覚)と言うらしい。

身体がどう反応するか?を注意深く観察する事だ。

”大きな仕事をやり遂げてほっとして体調を崩して熱がでた。”
という話を聞く。

これは、仕事をやり遂げたからほっとして熱がでたのか、
それとももっと前から体調を崩していたのだが、多忙でテンションも上がっており、アドレナリンが出ていたので気づかずにいたものが、ほっとした時に顕在化しただけなのかもしれない。

熱が出て数日休んで治る程度ならば良いが、
長期間、身体を騙しだまし酷使して気づいたら取り返しのつかない事になっている場合もある。

普段から身体の声に注意を払っていれば、もっと早く身体からの警告に気づけたかもしれない。
その時点で対処できたかもしれない。

起業家になってから、サラリーマンの時以上に健康管理、身体の管理に気を付けるようになった。
サラリーマンであれば、体調が悪くなっても、周囲に迷惑をかけるかもしれないが休んでも会社が倒産する事はない。
しかし、起業家の場合、自分が何日も寝込んでしまっては、致命的になる。
起業当初は、1日休むだけで会社が回らなくなる、大きなトラブルが起きる、そんな怖さを感じていた。

ましてウガンダで事業をしている場合、病院などの医療リソースに頼れない場合がある。
日本では助かる病気や事故も、ウガンダの医療レベルでは文字通り、致命的となる場合も多々ある。

命に別状がない病気でも、マラリアになれば1週間程度は休養が必要になる。
一週間も寝込んだら会社は倒産してしまう。。

ちなみに、マラリアはウガンダにおいてポピュラーな疫病で、きちんとした現代医療が受けられれば一般成人が死に至る事は稀だ。
高熱が出るとマラリアと診断されることも多い。マラリアを理由に病欠するスタッフも毎年数名はいる。
しかし、マラリアが危険な病気な事は言うまでもない。
熱帯熱マラリアの場合、発症後24時間以内に適切な治療を施さなかった場合、高い確率で重大な後遺症、死亡に至る。

体調管理自体の重要性に加え、ストレスマネジメントの面からも身体の声を聞く事が大事になる。


さて、具体的に、どのように身体の声を聞くのか?
常日頃から身体の反応に注意を向けている事も大事だが、普段から意識しないとできない。

そこで、私が継続して続けているのは、毎朝の体操を日課にしている。
体操は起業してから7年間、ほぼ毎日続けている。

体操だって???

おじいちゃんですか?
小学生の夏休みですか?
メーカーの工場の方ですか?

体操をしているというと、このような冷ややかな感想を言われることが多い。。。
が、体操はモニタリングにとても有効なのだ。

体操とは、決まった動きをする事だ。
毎朝同じ動きを続けていると、身体の異常のサインに気づきやすくなる。

あれ?今日は腰がいつもよりも曲がらない。
あれ?今日は肩が周りがイマイチだ。
あれ?なんか、いつもよりも疲れる。息が上がる。

同じ動きを繰り返すと、身体の声に気づきやすくなる。
違和感に気づいたら、早めに対処ができる。

同じ動きをする体操は良いモニタリングだと思う。

ちなみに、体操以外にも朝のルーティンとして、
3年ほど前からストレッチを加えたり、この半年は体幹トレーニングも加えた。
体力向上に加えて、身体のモニタリングにも役立っているように思う。


ここまで、心と身体のモニタリングを紹介した。
まだ第一ステップである。

モニタリングだけで面倒だと思った方、その気持ちは非常に分かる。。
が、モニタリングがきちんとできるようになれば、後は大したことはない。
6割は達成したのも同然だ。

3.ステップ(2)ニュートラルな状態に戻す

継続的に心身のモニタリングを続けると、早めに異常に気付ける。
早めに気づければ、重症化する前に、元に戻そうという発想が生まれてくる。
重症化していなければ、そこまで意識しなくても対応できる。

これがモニタリングできれば6割は達成といった理由だ。
モニタリングを意識するだけで、飛躍的にレジリエンスが向上する。

しかし、時には一気にゴムが引っ張られてちぎれそうになることもある。
モニタリングが間に合わない時もある。

ならば、意識的に元の状態に戻す方法を持っていた方がいい。
ニュートラルな状態に戻すための方法は人それぞれだ。
自分の性格や環境に合うものを見つけていけばよい。

以下、僕のニュートラルに戻すための方法を紹介したい。

(2)-1:身体を動かす

心と身体は繋がっている。
心や頭がモヤモヤしたら、まずは運動して身体を動かすのが手っ取り早い。
身体を動かさずに、頭ばかりに偏るからバランスが崩れる。
身体を動かし汗をかくとニュートラルな状態に戻りやすい。

健康のためにも、常日頃のストレス発散のためにも、日常的に生活に運動を取り入れるようになっていった。
元々、身体を動かす事は好きだったが、意図的に取り入れて続けるようになったのは起業してからだ。

徐々に取り入れていった結果、
・上述の朝の日課(体操、ストレッチ、体幹トレーニング、そして瞑想のワンセット)
・週に2-3回の軽い筋トレ
・週に2-3回の近所のジョギング
・週に一度の仲間とのテニス
・加えて、昨年4月から、友人に誘われてブラジリアン柔術も始めてみた。
(月に2-3回しか行けておらず、上手くはないし、得意ではないが、他人と一緒に汗をかくのは良い事だ。)

(2)-2.寝る

頭がモヤモヤしてきたら、一旦寝てみる。
僕は、モヤモヤしてきたら、仕事中でも打ち合わせなどがなければ20分くらいの仮眠を取る。週に1回は取っている。
経営者という比較的自由に時間管理できる立場というのもあり、無理して続けるよりは、一旦寝てリセットしてから取り組むことも多い。
軽度のモヤモヤであれば、寝るだけでスッキリしてニュートラルな状態に戻せる。

ただ、年齢を重ねたからか、ストレスレベルが上がったからか、
寝てもニュートラルにならない頻度は増えてきた。

(2)-3.気の置けない友人と触れ合う

突如、想定しなかった問題にぶち当たると、大きなストレスを感じ、一気に思考力が落ちる。心が暴れだし冷静でいられなくなる。
その状態でいくら考えても上手くいかない。
悪い方向に考えて余計落ち込むか、良いアイデアが出ずに負のスパイラルに入る。

仮眠したり、身体を動かしてもダメな場合、人と会うのが良い。
友人と飲みに行く、くだらない話をする、バカ騒ぎをする。

大変有難い事に、そういう時に誘うと付き合ってくれる友人がいる。
『今夜、飲み行かない?』と突然誘っても応じてくれる友人がチラホラいる。

飲みに行く、カラオケに行く、一緒に運動する等、数時間でも意図的に問題から離れてみると、リセットされる。


1~3のどれも、根本的に問題が解決するわけでもないし、ストレスの要因が消えてなくなるわけではない。
が、ここで大事なのは、直接問題解決に挑む前に、一旦ニュートラル状態に、心も体も頭もリセットする事だ。
心がドキドキし、頭がモヤモヤした状態でいくら考えても、負のスパイラルにハマるだけだ。

4.ステップ(3)ストレスの根本原因と向き合う

さて、心と身体と頭をニュートラルな状態に戻せたら、ストレスを生み出す要因に向き合おう。
簡単な問題であれば、心がニュートラルな状態に保てていれば、自然と良い解決策が生まれる。
難しい問題になれば、きちんと向き合わなければならない。

複雑な問題になれば、『こうしておけば大丈夫』という唯一の最適解など見つからない。
どれを選択しても不安が付きまとう。。

片方を立てれば片方が上手くいかない。などのシステム思考でいう複雑系の高い問題だ。
二項対立で整理しても上手くいかず、その両者のバランスを取る妥協案でも上手くいかない。
箱の外に出て第三の案を紡ぎだす必要がある。

心がニュートラルに移り変わった状態で、状況を整理していく。
自分の場合は、白い紙を数枚取り出し、状況を整理していく。
なぜ自分がストレスを感じているのか?何に対してストレスを感じているのか?何が嫌なのか?など、因数分解してみる。

複数組織や人間関係が絡む話であれば、各ステークホルダーの視点からみたインセンティブ・モチベーションを整理して、各者の視点からみるのも有効である。
(この辺りはストレスマネジメントではなく、問題解決の話なので今回のテーマでは扱わない。)

状況を整理すれば、論点も絞られてくる。

5.ステップ(4)相談する

問題やストレスの原因にもよるが、ポジティブな状態で向き合えば、長くても半日もすれば状況が整理され論点が絞られてくる。
論点が絞られれば、人にアドバイスをもらいやすくなる。

相談する事は、直接的な問題解決のアドバイスを貰う事と共に、ストレスマネジメントにとっても重要なので紹介したい。

問題の種類にもよるが、同じような境遇を経験している人、自分よりも上手の人に連絡し、壁打ち相手になってもらう。
本当にありがたい事だが、こういう時に乗ってくださる友人や先輩がいる。
頭ごなしにアドバイスをするのではなく、じっくり傾聴してくれて、その上で経験や自身の考えを聞かせてくださる。

一人に話して解決する事もあれば、立場の異なる数名に話を聞く場合もある。

もちろん、忙しい人に貴重な時間を割いてもらうわけなので、何でもかんでも相談に行くのは憚れる。
これまでのプロセスで他人に相談を持ち掛けるまでもなく、良い解決策が見つかる場合も多い。

それでも僕の場合は、結構気軽かつ早めに相談に乗ってもらう。
仮に自分一人で確度の高い解決策に絞られている場合でも、相談に乗ってもらう事もある。

相談する事で、自分が見えてなかった盲点に気づかせてくれる場合もあるし、
背中を押してもらい問題に取り組む覚悟が強まる事もある。

もちろん、言うまでもないが、どんな解決策が出てきても、選ぶのは自分である。
他人に背中を押してもらい実行して上手くいかなくても、アドバイスを与えた人には一切の責任はない。
(ここは、自律した当事者として問題解決をしているのか、依存して当事者になり切れていないかによる。ここでは自律した当事者である事を前提とする。)

さて、ここまでの準備や対策をしていれば、もう大抵のストレスには向き合えるだろう。
実際にこれらの試行錯誤を続けていく事で、ストレスから精神が不安定になる事は激減した。

ただ、先に進めば、より高いレベルのモンスター(問題)が出現する。
自分のレベルが上がり、向き合う課題のレベルが上がったのか、
事業が拡大し、より複雑な課題になったからか、
これまでの方法では対処できない場合もある。

以下、2つTIPSを紹介する。

後編へ続く)