勃興するライドシェアサービスへの期待と懸念(2)
前回(勃興するライドシェアサービスへの期待と懸念(1))では、ここ数年で勃興するライドシェアサービスの現状についてお伝えしました。
Uberが自動車のタクシーから参入し広がったライドシェアは、カンパラの特性からバイクタクシーが台頭してきました。パイオニアは、ウガンダ発のSafeboda。そこに、Uber bodaやTaxify bodaが参入し、三つ巴の様相を呈しています。
競争に伴い、各社がドライバーにインセンティブ(キャッシュバック)しているため、ユーザーは通常のボダ(バイクタクシー)の1/3から半額程度で利用できる事態になっています。
さらに、ルートによっては、公共交通機関のマタツより安い金額になってきました。
今回はこの競争の末にある社会を考えてみたいと思います。
ペイバックの世界
この低価格により、現在でも、古くからのボダドライバー(バイクタクシー)に影響が出ています。
Safebodaの場合、バイクステージに行き、空いているSafebodaがいれば、ドライバーの番号(ヘルメットに記載)を打ち込めば、Paringという機能で、目の前のドライバーを指定できます。
私もかなりのボダヘビーユーザーですが、最近は流しのボダやステージのボダを使う回数が1/3以下になりました。
・まずは低価格
・安全(安全運転。信号守るなど)
・相手の身元が分かる安心感
・自分のヘルメットを忘れても、乗客用のヘルメットを持っている。
安全面からも、特に夜間の際は、ライドシェア一択になります。
ボダステージに行くと、色々話しかけられます。最近はスマホ画面を見ているだけで、『Safeboda?』と聞かれます。実際にSafebodaを使った時の彼らの『なんだよ!』という顔は少し複雑な気持ちになります。
現在の様相は、アフリカなどで行われる援助の弊害の様相に近いものなのかもしれません。
良かれと思い、国際機関が援助物資を無料で配給する事で、現地で同様の製品を売っていた人々は倒産に追い込まれます。民業圧迫というものですね。
十数年も前からこの弊害は指摘されており、近年は減ってきたように思います。
さて、ライドシェアの場合、民間営利企業のため援助ではありません。
ただ、シェアを取るために、主に国外の投資家から得た資金を元手にペイバックしています。
我々ユーザーは恩恵を受けていますが、ビジネスの効率化(経営努力)から来る割引ではなく、一時的なものです。
また、それにより、弱小のボダドライバーは仕事を失います。(なので、彼らはライドシェアのドライバーになるとも言えます。)
一社が勝ちぬいた後の世界は?
現在のプロモーションの状態が数年続き、仮にどこかの一社が勝ち抜き独占したとしましょう。
(東南アジアではUberが撤退。Grabに引継ぎをしている例も出ているようですね。)
その後、現在のモデルでは大赤字のため(運営費や利益はおろか、一台お客を取るとペイバックのため粗利で赤になる)、適正価格に戻します。
その時に、通常のボダドライバーは残っているのでしょうか?残っていたとしてもどのくらいの割合がいるのでしょうか?
そして、一度、低価格に慣れ切ったユーザーや市場は、価格が上がった時に、どのような反応をするのでしょうか?
他に選択肢がなければ、価格が倍以上になっても使うのでしょうね。(もちろん、それが企業が存続する利益のでる市場適正価格なわけですが)
では、適正価格に戻した後に、やはり適正価格でもウガンダの市場規模・購買力では存続は難しいと考え、撤退した場合にどうなるのでしょうか?
日本などの市場規模の大きい国や先進国であれば撤退はないと思いますが、ウガンダでは十分あり得る気がします。
地元のボダドライバーもほぼ消滅し、ライドシェアサービスも消える。
その後、
ライドシェアのドライバーをしていた人が、通常のボダドライバーに戻るのか、
現地の会社が引き継いでサービスを提供し続けるのか。
はたまた、新しい形が生まれるのか。
その際に、どのような混乱が起こるのか。
気になります。
公共交通機関マタツへの影響・変革
一方。ほぼ唯一の公共交通機関であるマタツはどうでしょうか?
現在のマタツの仕組みは、個々人のオーナーがバラバラで運営しており、非効率な仕組みになっています。
(乗車率・稼働率のバラツキがあり、都市の交通政策としては渋滞の原因でもあり事故の原因でもある。)
周りのウガンダ人を見ていても、これまでマタツを使っていた人がライドシェアに移行する例が少しずつですが見られています。(保守的なウガンダ人なので、移行ペースはスローですが・・)
これまでボダを多用していたウガンダ人がライドシェアへ移行するのは当然ですが、ボダには高くて乗れない人もライドシェアの価格ならば支払える人が増えてきているようです。(まだスマホを持たない中間層・低所得者層がいるため、彼らは安くてもライドシェアは使えない。)
マタツと比べ、ボダは圧倒的に時間の節約になるだけでなく、ルートによればマタツと同程度か安い価格で移動する事もできます。
ウガンダに来た事ない方はご存知ないかもしれませんが、カンパラは世界トップクラスの酷い渋滞の都市です。
2012年のBBCの記事ですが、『10 monster traffic jams from around the world』に選ばれています。
さらに、私がきた2014年と比べても、現在の渋滞はけた違いに酷くなっています。
その酷い渋滞に加え、世界でも5本の指にはいる人口増加率を誇るウガンダ。
年々、車も人も増えていきます。
この渋滞の解消の一つの手段は、効率的かつ大容量の公共交通機関(電車、メトロ、MRTなど)が必要不可欠です。近年、ケニアの首都ナイロビ、エチオピアの首都アディスアベバでもMRTなどがサービスを開始しています。
大容量の公共交通機関と真逆なのが、パーソナルモビリティではないでしょうか。
確かに非効率なマタツですが、ワンボックスカーに14名(既定の満車時)が乗って移動しています。
それがボダになったら、どうなるのでしょうか。
これ以上渋滞が酷くなると、都市として正常に機能するのか?との心配も出てきます。
ライドシェアサービスは非常に便利ですし、ヘビーユーザーな私ですが、
サービスが普及すればするほど、ユーザーが増えれば増えるほど、経済政策や都市政策と合わせて戦略を作っていく必要があります。
しかし、現在の政府にこのハンドリングを期待するのは難しいかと思います。
今後の数年でどのように社会が変わっていくのか、その中で弊社はどう流れに乗っていくのか、見極めながら動いていきたいなと思います。