アフリカのオンラインショップの潜在性と課題(1)
ここ3-4年、アフリカ大陸でのE-commerce、オンラインショップが台頭してきている。
弊社の7割程度のお客さんはオンラインショップであり、弊社はウガンダでのラストマイルの宅配を請け負っている。現在は国内外30以上のショップと取引をしている。
ウガンダ・アフリカのオンラインショップの未来は弊社のような宅配会社にとってもキーとなっている。
弊社でも、オンライン流通を促進させる新たな流通プラットフォームを準備し、9月から小さくトライアルを行っている。(これについては、機会があれば別途述べたいと思う。)
今回から数回に渡り、アフリカ全体での電子決済・デジタル流通業界(オンラインショップ、E-commerce)のポテンシャル、課題について記事にしたいと思う。
ここ数年、E-commerce市場は急激に伸びており、2025年にはアフリカ全体で750億ドルの市場になるといわれている。(McKinsey Africa Digital Transformation_Nov2013)
経済的な成長だけでなく、新たな社会の形を築く上でも、デジタル流通が貢献する役割は大きいと考えている。しかし、当然、先進国にはない様々な障害・制約もある。
初回は、まず電子決済・デジタル流通業界の可能性について述べたい。
1.アフリカにおけるオンラインショップのポテンシャル
これから、色々な統計情報や公表されているレポートの数字を元にポテンシャルについて語っていきたいと思う。
一方で、アフリカで商売を行っていて、現場では統計情報が役に立たないケースが多い。実際の状況は現場で関係者と話しをしたり、市場を自分の足で見て歩かなければ感覚が掴めない事ばかりである。
現場の肌感覚が大事な事は間違いないが、最初の一歩としてデータを元に色々思案するのは有効だと思っている。
(1)急激な経済成長を支える、人口増加、若者の増加、中間層の台頭
E-commerce市場に限らず、アフリカでの事業を考える上で、まずは、急激な経済成長率が挙げられる。2000年代に入ってから、アフリカは急速な経済成長を経験している。
特に、家計最終消費は年10.7%で成長しており、2000年に8500億ドルであったのが、2012年には1.3兆ドルに達している。(World Economic Outlook Database)
ここ数年で大きく減速したものの、2017年には持ち返しており、サブサハラ・アフリカ地域の成長率は、2018年は3.1%、2019~20年は平均3.6%になると言われている。(世界銀行『アフリカの鼓動』)
経済成長の大きな要因の一つが人口の増加だ。現在、世界で最も人口増加率が高いのがアフリカ大陸である。
2014年現在およそ10億人の人口だが、2040年には20億人になると言われている。
(2013 “Africa’s emerging middle class drives growth and democracy”,)
若者の増加が人口成長を支えている。15-24歳の人口が全体の約2割、2億人おり、2030年には3.2億人になると言われている。(European Commission report on Health and Aging.)
2030年には、若者の多くが所得中間層に位置付けられ、デジタル世代として、インターネット使いこなす。彼らが経済成長、消費活動、イノベーションを支える事になる。
人口増加・若者の増加に加え、低所得者層の割合が減り、中間層の割合が増えている。
2013年には3.75億人(全人口のおよそ34%)と言われている中間層は、2030年には5.8億人。2060年までには11億人になると言われている。人口増加と共に、高所得者層も増加し、2013年の6300万人から2030年には1.1億人程度に増加すると言われている。
(UN Data, African Development Bank, UNDESA, 2012)
また、私の活動するウガンダはアフリカ大陸の中でも高い人口増加率を誇る。平均年齢は16歳。15歳以下の人口が半分を占める。30歳以下の若者が人口の8割を占める。出生率もいまだ5.8人(2015年)と高い水準だ。
1969年には1000万人に満たない人口であったが、2017年現在4000万人を超えており、2040年には7500万人に達すると言われている。
(2)ネット、モバイルアクセスの急増
アフリカにおける、ここ10年のインターネットの普及は凄まじい。
2010年には人口の7%しかアクセスしていなかったのが、2016年には20%を超えている。
しかし、世界平均40%と比べると依然低く、今後10年以内に、現在のヨーロッパレベルの70%程度に増える可能性を秘めている
携帯電話ユーザーも多く、人口の72%が保有しており、30%程度、3.3億人がスマホにアクセスしている。
(Internet World Stats)
高速インターネットも徐々に普及しており、2016年段階で、32か国72のLTEネットワーク(4G回線)がある。(GSMAより)
(3)レガシーシステムによる阻害がない
ここまでは、経済成長、人口増加、インターネット普及と定量的に言われる事を整理した。
ここからは、定性的に、私の意見も交えて述べたいと思う。
アフリカは、急成長を遂げた事もあり、古い仕組み(レガシーシステム)を持たないため、逆にイノベーションの余地があるとも言われている。
有名な例はケニア発のモバイルマネー(M-Pesaなど)ではないだろうか。
地方には銀行アクセスがないため、携帯電話キャリアによるSMSをベースとしたMobile Moneyが流行った。
2007年にサービスをスタートして以来、ケニアでは成人の6割以上、1700万人が口座を持っていると言われている。
ウガンダも似たような状況で、MTN、Airtelを中心にモバイルマネーは普及している。
では、流通についてどうか。
多くの先進国では、1980年代までにスーパーマーケット、ショッピングモール、百貨店、コンビニエンスストアなどのモダン流通が普及し、個人商店や商店街は軒並み消滅した。新興国と言われる国でも、2000年に入るまでに似たような状況を辿っている。
そして、2000年代後半に入り、E-commerceが普及し、オフライン(モダン流通)の中にオンライン(オンラインショップ)の割合がどんどん増えているというところだろうか。
一方、アフリカでも、近年、都市部(主に首都のみ)を中心に、ものすごい勢いでモダン流通(スーパーマーケット、ショッピングモール)が増えている。
しかし、依然として流通の90%以上は伝統流通(インフォーマルな個人商店や市場など)が占めている。(UNECA Report)
経済成長著しい、ナイジェリアでも取引数の98%はローカル・インフォーマル流通からとの事である。
サブサハラで圧倒的な経済を誇る南アでもフォーマル流通は6割程度との事である。
デジタル流通(E-commerce)は増加しているとはいえ、流通全体からすると微々たるものだ。モダン流通が進む南アでさえ、全流通の0.59%(2014年)程度と言われている。
(How to Navigate the Retail Distribution Labyrinth, February 2015, Traditional Markets Still Trump Formal Retail Outlets In Africa, March 2015)
(ウガンダの地方流通の要所であるKikubo market)
モダン流通が伝統流通を飲み込んでからオンライン流通を経験した先進国や新興国と異なり、モダン流通の発展途上に、オンライン流通が普及している。
私個人は、ここに可能性を感じている。伝統流通(キオスクなど)とオンライン流通の融合の形に、一つのLeapfrog現象の可能性があるのではないかと考えている。
弊社では、現在、伝統流通のKIOSK(キオスク店舗)と連携した、伝統流通とデジタル流通を融合させた新たな流通プラットフォームを準備し、9月からトライアルをスタートさせている。この件については別の機会に触れたいと思う。
(4)品数の少なさ、不安定な在庫を克服するオンラインショップ
依然、伝統流通に頼るアフリカ消費社会であるが、小さい店舗のキオスクは、取り扱う品数も非常に限られており、慢性的に何かの商品が欠品している。
また、伝統流通に限らず、モダン流通でも、似たような事がある。
自国の製造業が未熟な国が多く、多くを他国の輸入に頼っている事もあり、最も売れる商品から棚に並び、ニッチな商品は扱われない。
オンラインショップの普及は、先進国においても、ニッチな商品を入手する手段となっている。
ここ1-2年、ウガンダにおいても、衣料品を扱うオンラインショップが増えており、他者と差別化したい層へ徐々に普及しているように思える。
日用品や消費財においてもそうだが、電化製品や自動車において、製造国ではない多くのアフリカの国ではニッチな商品は扱われない。国内で入手可能なスペアパーツが限られており、一般的に出回らない製品では、スペアパーツが手に入らないためだ。必然的に、少品種の製品が出回る事になる。
今後、多様なオンラインショップの普及、域外とのロジスティクスの効率化・低価格化により、電化製品や自動車などにおいても、多様な商品が出回る可能性はある。
(5)年々悪化する渋滞
アフリカ各国において、都市部の渋滞は年々悪化を示している。
特に東アフリカの渋滞は酷いと言われている。ナイロビ、ダルエスサラム、アディスアベバ、カンパラは慢性的な渋滞で大きな経済損失を被っている。
ウガンダの首都カンパラは、2012年にBBCにより渋滞が酷い都市トップ10の中で紹介された。
私がきた2014年以降も毎年悪化している。
伝統流通が主流のウガンダでは、スーパーマーケットで買えない商品も多く、その場合、タウンに点在する商店街に出向くことになる。
タウン(オールドタウン)には、農業資材、印刷資材、プラスチック用品、台所用品、生鮮食品など、商品群で、商店街(ストリート)や市場が点在している。しかし、タウンはカンパラ市内でももっとも渋滞が酷い場所だ。
この状況は他アフリカ諸国でも同様である。
効率的なオンラインショップは、わざわざ渋滞のある中出かけずとも、自宅やオフィスに届けてくれる。
上記のようなポテンシャルもあり、オンラインショップ業界は急激な成長をみせている。
先進であるケニアではオンラインショップによる購入額は、2014年に24億ケニアシリング(およそ24億円)から、たった2年で2016年には100億ケニアシリング(およそ100億円)にまで成長した。(Communications Authority of Kenya)
このように大きな可能性を秘めているアフリカのオンラインショップ市場だが、可能性と同じくらい大きな課題・阻害要因も存在している。次回は課題について述べたいと思う。