アフリカのオンラインショップの潜在性と課題(2)
前回は、アフリカでのEC(オンラインショップ、デジタル流通業界)のポテンシャルについて紹介した。
今回は、大きなポテンシャルがあるにもかかわらず、それを阻害する要因について紹介したい。
(私はこの言葉は好きではないが)ラストフロンティアと称されるように、経済的に取り残された大陸と言われるだけあり、当然だが、経済開発的に社会開発的にも多くの課題がある。
ただし、これらのマイナス要因をそのままネガティブに捉えるのではなく、それゆえ既存産業、既存プレイヤーなどがおらず、リープフロッグを生み出す環境である事は先に付け加えておきたい。
1.脆弱かつ未発達な物流
まずは、弊社がラストマイル配送で関わるロジスティクスの問題から見ていきたい。
オンラインショッピングの肝は、各家庭への配送となるが、様々な理由から、先進国のような効率的な配送手段を使う事は難しい。代表的な例を以下に挙げたい。
a)住所がない
まず、日本など先進国の方よく聞かれる質問は、『住所がなくて、どのように配達しているんですか?』だ。
特別な事はしていない。非常に原始的だが、
大まかなエリア、通り名を聞き出し、最後は電話で場所を説明を受け、たどり着く。
詳しくは、昨年、こちらで記事にしている。
住所のない国で、地図の読めない人たちと、バイク便事業を始めた話。
”日本の例でいうと、宅配便の伝票で書かれた住所が、「東京都八王子市」まではわかるけれど、「八王子」のどこにあるのかわからない……といったイメージです。
そのため、宅配サービスを提供する我々にとって、お客様のご自宅まで届けるのは一苦労になります。”
よく、GPSの場所を得てGoogle mapで案内できないのか?と言われるが、そう簡単ではない。まず、顧客側のITリテラシーが高くない場合も多く、GPSの所在地を得る方が時間がかかる。スマホを持っていない層も多い。また、弊社のドライバーも地図の読めるドライバーは少ない。
以前、日本から来た学生インターンが地図を読めるように、数か月頑張ってみたが、あまり改善しなかった。
確かに、電話をすれば行きつくことができるのだが、非効率で時間もかかる。
お客さんには、説明の手間をかけてしまうし、不在時の宅配ボックスの活用もできない。
住所がない事により、宅配の生産性は三分の一になると言われており、その分、宅配単価も上がる。ただでさえ、購買力が低く、価格にセンシティブなマーケットで高い宅配料は大きな阻害要因になっている。
b)未熟な交通インフラ
当然、交通インフラが整っていない事もロジスティックスには大きなマイナス要因となる。
以下、私が日常接している例をいくつか挙げてみたい。
- 信号機がなければ、交差点は慢性的な渋滞の場所となる。事故も多い。
- 歩道や横断歩道がなければ、人々は車道を歩く。渡る。そして、道路の端は、歩行者がいる中、マタツ(乗り合いバス)が渋滞を横入りするために飛ばす事もある。バイクタクシーは歩道(または道路の端)を全速力で走る。
- そして、未熟な道路は、雨にとことん弱い。特に丘の街であるカンパラは、数十分のスコールがあれば交通がマヒする。1m以上浸水する箇所も日常的に発生し、歩行者やバイクはおろか、車でさえ走れない。
- 首都カンパラでも、幹線道路を除き、まだまだアスファルトで整備された道路は多くない。土のデコボコの道は時間がかかるだけでなく、雨が降ると水没する。
c)酷い渋滞
渋滞はユーザーが街に買い物に行きたくないという、オンラインショッピングの動機になる一方で、ロジスティックスへの負の影響もある。
上記の未熟なインフラが引き起こす渋滞も当然ある。車の数と比較した道路の数(面積・走行距離)が足りないというキャパシティの問題もある。
がしかし、それ以上にドライバーの運転意識の問題が大きい。
当然、運転免許制度はあるが、形骸化している面も大きい。
バイクのドライバーであれば、市内のバイクタクシードライバーの95%以上は無免許だ。運転免許の値段が相対的に高価というのもあるが、免許がなくても捕まらない。警察に止められても大抵は小額の賄賂で解決できるという面も大きい。
また、免許は持っていても、教習所で実技を習っているかというとそうでもない。特にバイクの場合は、教習所に5万SH(1500円)程度を払えば、卒業証書が得られる。
自動車の場合は、多くが免許を持っているが、車の運転の仕方を学んでも、道路の使い方・交通ルールは学んでいない事も多い。
そのため、横入り、追い越し、反対車線を全力疾走などは日常の光景である。カンパラの名物として、4車線程度の交差点でも、反対車線など、あちこちから車が入り込んでデッドロックの状態になり、交差点が数時間機能不全になる風景がある。
また、交通ルールが守られていなければ、事故も多発する。自分がいくら気を付けていても事故には巻き込まれる。
2.決済手段が整備されていない。
オンラインショッピングにおいて物流と同じくらい重要なのは、決済だ。
日本など先進国では、オンラインショップ以前にキャッシュレス決済が普及していた。クレジットカード然りである。オンラインが普及してからは、Paypalなどのアグリゲーションサービスも普及し、近年ではAmazon PayやApple Pay等も出てきた。いずれも、クレジットカードや電子マネーが前提にある。
アフリカにおいて、依然として現金決済が主流である。モバイルマネーがあるとはいえ、そこに常時一定額の貯蓄を入れているユーザーも多くない。そのため、弊社でも95%以上の決済は現金代引である。
現金代引は宅配の効率性、リスクに大きくかかわる。
まず、宅配効率がかなり落ちる。相手が在宅であっても、十分な現金を持っておらず、宅配が出来ない場合もある。
詳しくは、先ほどの記事にも書いている。
“住所のない国で、地図の読めない人たちと、バイク便事業を始めた話。”
前日にオンラインショップで受けた注文に対して、翌日の朝に電話をかけて確認をすると、
「今お金がないから、一ヶ月後に配達してくれ」とか
「あー、今朝、急用がありお金使っちゃったよ」とか
「月末の給料日まで待って」とか
「子供に借りるよ」とか……
そして、ドライバーが治安のよくない 街中を多額の現金を持って走り回るのも大きなリスクだ。盗難、強盗にあうだけでなく、ドライバーに横領や不正のインセンティブを与えてしまう事にもなる。
実際、私も昨年前半は、たびたび自社ドライバーの不正や横領に会い、3件の裁判を起こしている。その後の内部統制の改善やルールの厳格化などで、昨年7月以来、事件は起こっていないが、高額な商品の宅配は避けたいものである。
3.“見えない”ショップへの不信感
上記のキャッシュレス決済が普及しない原因は、単にクレジットカード・デビットカードの普及率の低さだけではない。
オンラインショッピングは、見えない相手との取引であり、原則前払いになる。
犯罪に対する法的制裁、社会的制裁が機能していない社会では、商取引への不信感も大きい。弊社でも実際に回収不能となったケースは多い。その際に、警察や裁判所へ立ち会っても、ほとんどは解決に至らない。昨年あったケースでは、裁判になりほぼ勝訴確実だったtころ、裁判官を買収されて提出した証拠書類も取り上げられてしまった。
そんな中、オンラインショッピングでも通販でも、モノを見てから支払いたいのだ。
現金代引によるオンラインショップの購入は、“購入行為”ではない。SNSの“いいね”の感覚で注文するお客様も多く、注文後に『やっぱりキャンセルね。』というケースも多くなる。
上記3つが直接的な大きな障害といえる。
他オンラインショップに限らないが、以下の課題も大きい。
4.(現時点で)オンラインショップを使える顧客層が少ない。
前回、ポテンシャルがあると説明したが、あくまでもポテンシャルだ。現時点ではアッパーミドルといわれる中間層の中でも比較的収入の高い層以上に限られる。
現時点で、アフリカ大陸全体で中間層は3.5億人いると言われているが、そのうち6割はFloating Middleと呼ばれる一日2-4ドルで暮らす低所得者層より若干収入が高い層だ。
ある記事によると、中間層の大半はアメリカ合衆国の貧困レベルである一日13ドル以下で生活している。との事だ。(物価水準が異なる国の所得者層を一律に論じる事にあまり意味がない事は承知の上)
また、アフリカに初めて訪問する人は良く驚くが、物価が高い。収入に対する物価が非常に高いのも、アフリカ大陸の特徴だ。ある一定ラインを割ると、自給率(農業だけでなく、製造品の自給)が下がり、輸送コストも上がるため、日用品や電化製品は日本よりも高い。
中間層の支出の半分以上は食費に消えており、それ以外に住居、交通費、医療費、教育費、冠婚葬祭などを賄うことになり、生活必需品以外の商品を購入する購買力はとても低い。
加えて、中間層以下のITリテラシーがまだ育っていない事も大きい。
確かに携帯は大きく普及し、スマホの普及率も伸びているが、オンラインショッピングサイトを使いこなすには、それなりのITスキルが必要だ。
5.高額なインターネット
インターネットのカバー率は急増している一方で、ネット料金は決して安くない。
ウガンダでいえば、内陸国であり隣国ケニア(沿岸国)からの光ファイバーを十分設置できていない事もあり、定額制のインターネットは全くと言っていいほど普及していない。
私でも常々、ネット料金を高い!と思っている。まして、上記で挙げた中間層にとっては常時ネットワークに繋がることは大きな負担になる。
6.他国展開が容易ではない。
一国のマーケットが小さくとも、50か国以上が集まるアフリカ大陸である。纏めたら相当大きなマーケットになることは間違いない。
しかし、EUと比較するまでもないが、域内の横展開はそう簡単ではない。
横断的な決済手段がない事、物流が分断されている事、税制度がバラバラな事、輸出入の手続きが非常に煩雑な事、想定以上に文化的背景が異なる事(購買行動が異なる事)などが挙げられる。
経済圏の貿易でいえば、東アフリカ共同体(EAC)は、One Stop Borderという取り組みをしており、改善はしているが、まだまだスムーズというレベルには程遠い。
弊社のケニアのオンラインショップのお客さんも、国境で荷物が数日止められて、お客さんから弊社にクレームが来ることも多い。
以上、アフリカE-commerceの発展を妨げる障害について説明した。
次回以降、アフリカへのオンラインショップの参入のポイント、上記の障害を克服するための弊社の新サービスなどについて述べたいと思う。