零細企業に優しい規制とは

先週弊社のお得意様ビクトリアが店を閉めました。規制当局からの要請に応えられないことが理由です。彼女はマプトの中央駅付近の歩行者通路で青空食堂を経営していました。持ち運びできる椅子・テーブル・炭焼きコンロ・水桶・日よけ等のミニマムな資材でできた即席店舗です。

 

(ビクトリアの青空食堂)

 

ビクトリアが同じ場所で食堂経営していたお母さんの仕事を継いで13年、食堂自体は25年も続きました。お店の売りは場所と味と人柄だったと思います。中央駅の周りは食堂や商店がないので、港や駅や通関企業で働く人達が主に来店していました。ビクトリアはいつも明るく優しく面倒見が良い、同じ年なのに何故か母性を感じさせる女性で、心が疲れると無性に会いたくなるタイプの人です。メニューも多くはありませんが、鯵フライやレバー煮込みなどいつも美味しい料理を出してくれました。

 

私達がマプトに来たばかりの頃は車や会社の登記業務で中央駅付近をうろつく時間が長く、ビクトリアの店でお昼を食べて、調理エネルギー使用状況についてインタビューを重ねていました。ブリケットを生産開始後は、一番に弊社商品のリピーターになってくれましたし、彼女の紹介でMACAMANENEを購入してくれたお客さんも10人近くいます。このように私達はビクトリアに本当にお世話になりました。

 

彼女が店を閉めるきっかけとなったのは市役所の担当官が『営業したいならちゃんと店舗を建てて、営業ライセンスを取得しなさい』と言ったからです。要請内容はもっともだと思いますが、ビクトリアは青空食堂経営を通して13年もの間誰にも頼らずに、周辺で働く人々に安くて美味しい食事を提供し、2人の息子を養ってきたのです。

 

営業ライセンスを取得するにはどんなに切り詰めても6,000円はかかりますし、安く取得する為には自分自身で企業定款を作成しなければならずパソコンを使えない人にはハードルが高いです。ライセンス取得後も飲食業では従業員全員の健康証明書携帯を義務付けられており、出費がかさみます。実際多くの庶民食堂ではこれらの規制が遵守されていない現状があります。今回ビクトリアの食堂に市役所が着目した背景には、中央駅近くの路上という地域性も関係していると思います。

 

市役所としては”街並みを綺麗にしたい”とか”衛生レベルを高めたい”とか正当な理由があるのでしょうが、”格差の少ない経済成長を実現する”とか”低所得層の経済的自立を促進する”とかより大切な政策目標がある気がしてなりません。

 

モザンビークでは、アフリカの他の国(ウガンダやケニアやタンザニアなど)ほどは多くの路上庶民食堂を見かけません。多くの庶民食堂は塀で囲われた市場の暗い一角に集まっていますし、家の裏などでひっそりと経営されている場合もあります。オフィス街のランチアワーでは車荷台に調理した食事を積み込み販売する移動食堂が主流です。これらの移動食堂も政府規制当局から営業違反を言い渡されて、『移動販売ライセンス取得の仕組みもないのに違反を指摘するのは理不尽だ』と集団抗議していました。

 

 (市場の中にある食堂街)

 

私達がVERDE AFRICAを通して実現したいことの1つに零細企業家によりそうビジネスという点があります。ビクトリアが食堂を徐々に大きくして(その過程で弊社の炭を使って経費節減!)子供を学校に行かせて家を建てて、いつか準備ができた時にレストランを建てて法人登記をして企業経営者となっていく、そんな彼女の姿を見たいと思ってきました。

 

現実と乖離した規制を作り思いつきのように目をつけた庶民を締め上げていくことは簡単です。でも自分の力で頑張るモザンビーク庶民が次のステップにあがれるような規制の仕組みを作っていく事が、今必要とされているインクルーシブな政策ではないでしょうか。