異文化でのBtoCの難しさ ➀

ブリケットは通常廃棄されるバイオマスを再利用して作られることが多い。当社は木炭の屑を木炭販売業者から買い取って、再利用している。何故、木炭屑を選んでいるのかというと当社の商圏においては品質と調達加工コストのパフォーマンスが最も優れているからだ。

モザンビークの木炭市場の1%を獲得できれば、十数人規模のブリケット企業には十分な売上がたつ。木炭との性能(火力や扱いやすさなど)の違いを考慮して、価格は木炭の6−7割程度に設定した。つまり安価な商品を大勢のお客さんに売りたかったのだ。

でもブリケットはなかなか売れない。特に家庭や食堂などのBtoC(個人客向け販売)での売上は計画を大幅に下回り、メインターゲットをBtoB(対ビジネス向けサービス)に変更するという軌道修正をせざるを得なかった。もちろんマーケティングとか販売形態とかセールスの改善点は山ほどあると思うけど、当社のリソースと頭脳を使って2年ほど苦心した結果、収益化する兆しが見えないという結論に至った。

現在の顧客はレストランや養鶏場が中心だ。注文があればBtoCのお客さんにも配達するが、積極的な営業活動は行っていない。家庭や食堂のお客さんは中産階級の比較的しっかりした家庭だったり、ビジネスを上手に仕切っているアクティブな食堂が大半を占める。

食堂は沢山の炭を使うけど、定期購入に繋がるお客さんは一握りだ。

これまで沢山の家庭や食堂のお客さんが興味を示して、買ってくれた。でも、継続購入につながらなかった。1回買ってやめてしまう人も多いけど、6ヶ月くらい使って突然やめてしまう人も結構多い。個人的に後者のケースはすごく落ち込むのだが、現実を見なければいけない。

起業前の私は休日や夜のスターバックスでエクセルの事業計画書を作りながら、現状よりもかなり楽観的な家庭顧客の商品リピート率を想定していた。仮説は『木炭をブリケットに変えて料理するだけで、1日10円以上を節約できるなら、多少の使いにくさがあっても節約重視で購入する』というものだった。正直、所得が低い人ほど節約に熱心だと想定していた。事業計画書とは何が違っていたのか。まだ自分の中でも答えがないけど、ここ一年考えて少しずつ見えてきた視点について綴ってみたい。

お客さんがどの調理燃料を選ぶかは ➀予算 ➁調理しやすさ ➂便利さ の3点が主にあると思う。当社の商品は予算と便利さの面では競争力があるはずだ。一方で、木炭との違いに慣れることができないお客さんが多く、調理しやすいとは言えないようだ。

難点を克服するために、丁寧な使用方法説明や技術的な改善を続けていくことが必要だ。ただ、最近気がついたことは、家庭における節約の感覚は日本のそれと全く異なっているということだ。

昭和の日本に生まれ育った私は、1円でも安いものを買おうとする母や祖母の情熱を見て育った。10円安い大根を買うために200メートル遠い店に行く。使っていない家電は主電源を切って電気代を節約する。時代は変わりつつあると思うけど、節約に対する私のイメージはこんな感じだ。

その同じ10円は月次最低賃金が1万円前後のモザンビークではどのくらいの価値があるか。私は結局日本人の感覚をベースにしか考えられていなかったのだと気がついた。一般的なモザンビーク家庭と日本家庭を比べると、より節約熱心なのは日本だと思う。総所得に対する節約額の割合と節約に費やすエネルギーで考えるとより明白だ。(もちろん節約感覚には個人差があり、一括りにして話すのは難しいのだけど全体的な傾向についての考えとしてご理解頂きたい。)

世界的にみると日本は節約熱心な国の部類に入ると思う。私が卒業したカナダの大学のマクロ経済学の教科書には、日本家庭で見られる節約努力(主電源を切るとか、炊飯器の保温電力節約など)についてコラムで特別に紹介されていた。それは文化背景により消費及び貯蓄行動が異なるというメッセージだ。なぜ、日本とモザンビークの節約の感覚が異なるのか。2つの社会文化背景の違いが影響しているのではないかと考えた。

➀ 貯蓄サービスへのアクセス

➁ より良い人生を求めてどのくらいの時間軸で行動するのか

続きはまた次回…