ついに土地が決まる
ここに拠点をつくると決めてから、土地はすぐに見つかった。見つかったが、なかなか決まらなかった。いろいろと理由はあるけれど、大きく2つあって、①周りと違っている点についてのプレゼンテーション(お客さんの奪い合いが起きないように、周りと違ったことをしないといけない)がうまく伝わらなかったことと、②外国人がここで仕事をしようとすることが不自然であったことである。
①については、回数を重ねていくとだいたい要領をつかめてきて、そのエリアの現状を自分なりに分析したあとに、やろうとしていることを伝えれば、怪訝そうな顔をされるだけで問題は解消された。
しかし、②については、なかなか納得してもらえなかった。
「日本人がわざわざここに来て会社をつくるなんて考えられない。」
「日本にはテクノロジーもあって仕事もあるのに、なぜこんなテクノロジーも仕事もない所に来るんだ。」
「この地域には一度だけインド人が来て仕事をしようとしたが今は誰もいない。外国人がここでやろうなんて無理だ。」
ぼくは何度も説明にあがったが、いちど難色を示した人を覆すのは極めて困難だ。なかなか承諾を得られないなか、8人目か9人目の地主との交渉でようやく事態は前に進んだ。
それはとても些細なことで、ぼくは虫があまり得意ではないのだが、交渉中に蛾がぼくの顔に止まり、驚いて椅子から転げ落ちたことが地主の笑いのツボにハマったことが功を奏した。ユーモアはコミュニケーションを潤滑にする。
6年前にここに来たこと、また帰ると約束して、こうして帰ってきたこと、ここでつくりたい世界を身振り手振りで説明した。ぼくの力説とは裏腹に、笑い転げている地主は暫く経ってから言った。
「おまえみたいなやつを、ずっと待ってた。」
話を聞くと、彼の家族にも障害をもつ人がいた。トーゴには障害をもつ人に対する制度保障はない。そんななか、民間で何とかしようとする姿勢に共感してくれた。
ついに、土地が決まった。面積はそんなに大きくはないけれど、日本人がここで仕事を始めるという意味において、それは大きな一歩となる土地だと思っている。