京都の職人のもとへ

トーゴから帰国してすぐに、京都の職人のもとへ駆け込んだ。ご自身で創業されて半世紀。独自に染色技法を生み出し、ルイヴィトンやエルメス、イッセイミヤケなど、名だたる国内外のハイブランドからのオファーが絶えない職人だ。

なぜトップクリエイターが、京都の職人のもとへ足繁く通うのか。世界広しといえども、ここでしか出来ない染色があるからだ。その高い技術は、想像を絶する失敗に裏付けされている。お話を伺うと、幾度となく失敗を重ね、しかしその失敗こそがヒントになり、画期的な技法を生み出してきた。広幅(112cm幅)の手染めができる工場はここにしかない。手作業の味わい深い染色が、ここにはある。

 

「おまえホンマに持って帰ってきたんかいな」と呆れた顔をされながらも、「その生地、はよこっち持ってきい」とワクワクされている。

しかし、じっくり現物をみて、ボソッと口にしたのは「これは難しい」という一言だった。長年にわたって様々な生地をみてきた職人でさえも、トーゴという馴染みのない国から持って帰ってきた代物は初めて見たという。

 

ぼくが持ち込んだケンテと呼ばれるアフリカ布は13cm前後の布を繋ぎ合わせたものだ。それが面白いと思って仕入れてきたのはいいものの、その繋ぎ目の弱さが染色加工で大きなネックとなることを、そのとき初めて知った。

 また生地をもった感じが、ほかのものと比べると、すこし重いことも懸念事項として挙げられた。服にしたとき、重量感が出るため、レディースには向かないのではないかという意見を頂いたのだ。
ぼくはとても嬉しい気持ちになった。課題が明確になったからだ。繋ぎ目を活かすことができて、多少の重量感があっても楽しめる完成品はなにか。そんなテーマでモノづくりを進めることができる。ある程度、制限があるほうがクリエイティブな発想が出やすいと、なにかの本で読んだことがある。そういう意味で、職人の目に触れたことは大きな一歩となった。
 実際に染色を施したらどのようになるのか。数百あるデザインから、選りすぐりの10種類をピックアップし、色合いをみんなで相談しながらオーダーした。
気づいたときには日が暮れていた。職人は言った。
「昔はおまえみたいにアホなこと考えて訪ねてくるやつも多かった。みんなで輪になって話し合って、たまに喧嘩もしながらモノづくりをしたもんや。でもいまは全部パソコンやもんなあ。」
パソコンでは味わえない体験がある。人が生み出す体験が人の心を動かすと思う。一歩ずつ、前へ。みんなの気持ちをのせて、カタチにしていく。