惨敗を喫する

ぼくたちのモットーは、試しにやってみることだ。「始めからできたら男前、できなくて当たり前」とも言うし、できないことから始まる可能性に賭けるのが、ぼくたちのやり方だ。でも、ほんのちょっとだけ、男前だと思っていたところがあったのかもしれない。大都会・東京で苦汁をなめる結果となった。

FullSizeRender

↑ケチョンケチョンにされた相棒
 この4ヶ月半、死ぬ気でやってきた。累計して164人の方々にアドバイスを頂きながら、日本から13,000km離れたトーゴという馴染みのない国に往復5日かけて行き、言葉の通じない現地の職人と交渉して何とか調達できた素材を持って、京都の職人のもとへ駆け込み、少しずつ形にしてきた。道の途中ではあるが、形になってきたものが、市場でどのような反応を受けるのか知りたくて、東京に乗り込んだ。

FullSizeRender

↑会社の全財産をスーツケースに詰め込んだ
 東京は、多種多様なコレクションブランドをラインナップする世界でも珍しい都市だ。そんな都市の第一線で活躍するバイヤーたちの審美眼で、ぼくたちの魂を込めた商品を見てほしい。なぜかぼくたちは自信があって、彼らの度肝を抜き、商品を詰め込んだスーツケースが空っぽになるイメージをしていた。しかしスーツケースの重さは変わらなかったし、なんならテンションの分だけ帰りの方が重く感じた。
 ぼくのせいで、商談では相棒と店員さんが喧嘩みたいになってしまい、得も言われぬ空気が流れた。お互いに真剣だからこそヒートアップする。伝えたいことが伝えきれない歯がゆさ。言葉ではなくて、もっと深いところの何かが足りない。
 いつのまにか、スーツケースのコロコロは壊れていた。自分たちを奮い立たそうとして、一本の缶ビールを二人でわけて飲んだ。これが限界だと、言い訳をしてみたりした。ぼくたちは見事なまでの惨敗を喫した。
 帰りの駅のホーム、たまたま隣に並んでいた女の子がドリカムの「何度でも」を歌っていた。「10000回ダメでヘトヘトになっても、10001回目は何か変わるかもしれない」と。うまくいかないことが、諦める理由にはならない。力をつけて何度でも戻る。東京の寒空を見上げて、ぼくは白い息をはいた。