タンザニアのシャーマンキング

タンザニアでパン屋をやっています、松浦です。

今回は、タンザニアの呪術にまつわるお話です。


ひょんなことから「タンザニアには死者を蘇生できる人がいる」という情報を得た。日本語で聞くとインパクトがある。

タンザニアに長く住んでいると、現地の人が日常的に呪術を話題にしていることに気づく。私もこれまでに何度か聞いたことがあった。

だがしかし、今回は「死者蘇生」である。黒魔術はよく聞くけども、死者の蘇生については初耳だ。シャーマンキングだ。阿弥陀丸だ。麻倉葉だ。私は、それはそれは胸を躍らせた。科学では説明できない目に見えない世界のお話が好きな性分なのだ。

さて、「死者蘇生」スキルを持つ人物とは一体?私は好奇心120%で少し調べてみることにした。

その前に、何ゆえ私がこんなに興奮していたのかを説明しておきたい。それはこの情報を得ることになった経路にある。実は、このお話、タンザニア人ではなく、日本の、しかも普段はタンザニアないしはアフリカとは縁遠い生活を送る方の発信で知ったのである。

なので、私の調査のモチベーションは、①なぜアフリカから縁遠い日本の方が「タンザニアの死者蘇生能力を有する人物」について知り得ることになったのかということと、②そもそもその人物はタンザニアに実在しているのか、しているとして、現地ではどういう見方をされているのか、ということを知ることであった。めちゃくちゃ気になるじゃないか。

タンザニアの「シャーマンキング」の正体

さて、その人物について事前に分かっていたことは、

・死者蘇生スキルがある

・タンザニア人の牧師である

という2点のみであった。

ちょうど仕事をしていたので、社員にそれとなく尋ねてみた。しかし、「霊魂を呼び寄せるとかなら聞いたことあるが、死者蘇生は初耳だ」という。う〜ん、やはり噂に尾ひれがついていってしまったパターンか、と思った。

しかし、小山田まん太のファンはここで諦めるわけにはいかない。Googleよりもよっぽど精度の高い解答が得られることがあると名高いTwitterでも聞いてみた。

1時間後、

さすがTwitter!!!!!!!

まさかこんなに詳細の回答をいただけるとは・・・(中村葉子さんリプライいただきありがとうございます。)

これで名前が判明いたしました。ここからはGoogle先生に聞いてみる。

「タンザニア ガジマ 牧師」と検索窓に入力すると、記事がいくつか・・・ヒットするぅぅぅぅううううううう!!!!!??ちょっと動悸がした。だってちゃんと日本語なんだもの。日本語のめぼしい記事に目を通し、さらにスワヒリ語で検索すると、牧師について以下のことがわかった。

・牧師の名前は、Josephat Gwajima(ジョセファット・グワジマ)、2021年時点で51歳

・キリスト・タンザニア教会(GCTC)創設者、WEBサイトもしっかりしている

・Ufufuo Na Uzima(キリストタンザニア教会の栄光)省を率いるペンテコステ派の牧師であり、2021年現在、与党CCMのダルエスサラーム地域のカウェ選挙区の国会議員でもある

・2015年4月にタンザニアで武器・兵器の不法所持で逮捕された過去あり

・大和カルバリーチャペルの招待で数回来日し、宣教活動をしていた日本での集会の例)

・これまでに蘇生させた人間は400人以上と言われている

・日本語で本も出版されている

現在、タンザニアでCOVID-19ワクチン陰謀説を説いており、度々紙面を賑わせている

なんと、あのジョセファット・グワジマ氏であった。今月も数回紙面でお見かけしていたあのグワジマ氏だ。彼は、コロナワクチンが西欧諸国による陰謀であると説いており、現タンザニア政権の対コロナ政策と激しくバッティングするため、逮捕を巡って政府と一進一退の攻防を繰り広げている、時の人なのだ。しかも、なんと、保健大臣のドロシー・グワジマ氏は、彼の義理の姉だというから驚きだ。家族内に、ワクチン普及させる者とそれを陰謀説だと説く者が共存するというカオス・・・

しかしまあ、死者蘇生能力があると聞いてワクワクしていたのに、それが政治家だとわかると途端に胡散臭く感じるのは一体どういった摂理か。森の中で隠遁生活を送っていてほしかった。というのは、呪術に明るくないマグルの私が呪術師に対して持っているイメージの押し付けだ。

さて、人物が特定されたところで、肝心な彼の死者蘇生能力について見ていこう。

彼のWEBサイトを見てみると、死者蘇生に関する本も出版しているではないか。ちょっと購入してみようかと思ったが、34ドルと絶妙に高い値段設定だったので我慢しておいた。

WEBサイトには彼のYoutubeチャンネルもリンクが貼ってあり、見ていると、そこに死者蘇生のライブ動画があった。

亡くなった小学生女児を蘇生している。かなり大規模なイベントとして執り行っており、観客を前にステージ上で蘇生の儀式に取り組んでいる。

私のイメージしていた死者蘇生の儀式とはかなりかけ離れていたので、少々面食らった。私には詳しいことはわからないので、真偽の程を議論することはここでは避けたい。

ただ、ちょっと、おもてたんとちがう。

正直に心中吐露すると、残念である。

残念な気持ちの仔細を鑑みるに、それは彼が政治家であることと、この蘇生方法ゆえに、信憑性が疑わしくなってしまったことが起因しているように思う。

本当に死者蘇生ができるとして、なぜそれがステージ上でのパフォーマンスである必要があるのか。そこには本当に蘇生以外の不純な目的は介在しないのか。

彼がどういった思いで政界進出しているかは知り得ないが、政治家である限りは、自分の描くビジョンに向け、自分の動員できる人的資源や財を投じて大なり小なり戦略的に動く必要があるはずだ。

かなり大胆ではあるが、このステージ上での儀式も、支持者を集めるための単なるパフォーマンスではないのか、と勘ぐってしまったのだ。それが残念な気持ちの正体だ。

※日本とのコネクションについては、調べた限りにおいては、どういうきっかけでつくられたのかはわからなかった。

タンザニアの呪術事情

さて、グワジマ氏がおもてたんとちがったのは、ザニアで暮らす私が度々呪術(スワヒリ語でUchawi)について聞くことがあり、それで得た呪術に対するイメージと随分かけ離れていたからだ。調べながら分かったことだが、おそらく、グワジマ氏の蘇生の儀式は、そもそも呪術(Uchawi)に分類されない。

「死者蘇生」と聞き、私が勝手にスーパーヒューマンな力 = 呪術!Uchawi!と結びつけてしまったが、グワジマ氏は私の知る限り、死者蘇生をUchawiと関連づけてはいないのだ(そこまで詳細に彼の発言を知らないのではっきりとは言えないが)。

というわけで、ここから先は、死者蘇生の話は一旦箱にしまって、タンザニアの呪術(Uchawi)について私の見知ったことを書きたいと思う。

タンザニアの呪術にも色々な種類があるが、よく聞くのは怨恨による呪いだ。(豊作を願う雨乞いの儀式も昔聞いたことがあったが、私がいま住んでいる地域はシティシティしているためあまり聞かない。)

呪術師の元を訪れると、まずはカウンセリングがあり、その内容によって生贄として献上するものを指示され、終わると謝礼金を渡すという流れだ。(場合によっては謝礼金は先払いである)

ダルエスサラームでは、何か悪いことが起こると、「私、呪われてるかもしれない」ということがある。冗談めかして言うこともあるが、私の体感としては冗談じゃない場合の方が多い。口にする人は本気でそう思っているのだ。(この辺りのことは、井上真悠子さんの手記に現地の人がどのように捉えているのか詳しく書いてあるので、ぜひ参照されたい。)

とある事象を解決するために、科学では説明のつかない方法に頼るという点では、日本の霊媒師や陰陽師と似たようなものかもしれない。もっと身近なところでいうと、交通安全を願ってお守りを車に吊り下げたり、年初めに今年こそは大学に受かりますようにと神社に詣でたり、50m走のタイムが10.9秒と絶望的なので翌日の運動会が中止になるようてるてる坊主を逆さに吊るす、といったような類のものだ。

タンザニア人にとっての呪術が、今挙げた日本の例ほど身近な存在かと問われると、もうちょっと気合を入れて取り組むものだと思われる。だがしかし、ダルエスサラームでも都心からちょっと外れると、呪術師の名前と電話番号が書かれた手書きの看板がそこらに貼ってあったりするため、やはり我々日本人が「呪術」と日本語で聞いて連想するイメージよりは、ずっと身近な存在な気がしている。

昔、私が友人から聞いた話を紹介したい。彼は、Sumbawanga(スンバワンガ) というタンザニア西南部に位置する、呪術が活発であることで有名な地域の出身だ。話はこうである。

ある男がバイクを盗んだ。バイクの持ち主は犯人を特定し、返却を依頼したが、あれやこれやと理由をつけて返却してもらえなかった。怒った持ち主は、呪術師に相談した。呪術師に指示され、彼は、盗んだ者に掛け合い、返却までに1週間の猶予を与えた。これが最後のチャンスだと。しかし盗んだ者は相手にしなかった。そこで1週間後、呪術師によって黒魔術がかけられた。盗んだ者は、数日後に雷に打たれ、還らぬ人となった。

友人曰く、このような事例が彼の出身地では溢れているそうだ。

呪術の様子がより仔細にわかるレポートとして、2013年からダルエスサラーム大学に同時期に留学していた小池茅くんの呪術師弟子入り体験話がある。もちろんこれも呪術の一例でしかないが、写真付きなので、よりイメージしやすいと思う。

タンザニアの呪術をより詳細にイメージできるものとして、作家の中島らもさんの著作「ガダラの豚」も大変助けになると思う。私は人生初めてのタンザニア渡航前にこの作品を読み、まだ足を踏み入れたことのないタンザニアへの憧憬を募らせまくった。今から9年も前のことである。

ちなみに、日本でアフリカの呪術が話題にのぼるときは、大抵「アルビノ狩り」がセットになっている。一部の呪術師の間では、生贄としてアルビノの人の身体の一部(臓器である場合もある)が重宝されることがあり、国際社会から批判を受けまくっているのは、何を隠そうタンザニアのお話なのだ。(日本財団監修のこちらのレポートに詳細が書かれています。)

タンザニアの呪術は、こういった闇も孕んでいる。

ソーシャライズされた今時の呪術

先に紹介した私のTwitter投稿を見て、アフリカの大先輩が面白いことを教えてくださった。今時の呪術師はSNSで広告を打っている、と。

試しに教えてもらった通り、Facebookで「witch doctor」と検索窓に打ち込んでみる。「near me」や「for hire」が自動サジェストされるのが面白い。

画像1

いくつかの投稿が出てくるので見てみると、TOPのイメージ画像がきちんと設定されていたりと抜かりがない。

画像2

呪術師がSEO対策したりターゲティング広告を打ったりしていると思うとちょっとおもろい。何がおもろいって、ちゃんとマネタイズして呪術でもって生計を立てようとしていると想像すると、人間臭さが立ち込め、たちまちスーパーヒューマンな厳かさが消え去ってしまうではないか。

だがしかし、今時の呪術師は、そんな古臭いブランドイメージなどとうに刷新済みなのだ。いつだって時代の最先端をいく者は、クリエイティブでなければならない。

(私は普段Facebookを使うことがあまりないため、これまで呪術広告にお目にかかることはなかったが、アフリカのとある地域では広告が出るそうです。)

治安を維持する呪術

書きながら思ったことだが、呪術は今でいうところの警察の機能を担っていたのではなかろうか。

行政の発達していなかった時代は、村に悪を成敗できる絶対的な権力がなかったはずなので、治安を維持するための存在として呪術師が重宝されたのかもしれない。

「悪いことをすれば災いが訪れる」と人々が信じることは、悪行を企てる者にとっての抑止力になるはずだ。

かくいう私も黒魔術をかけられることは怖い。誰かに恨まれていると想像するだけで気に病んでしまう。そして、誰かを恨んでしまうことはもっと避けたい。だから普段から徳を積んでおきたい。

しかし、徳が積めているかは不安なので、その不安を解消するために、予防としてお守りなんかがあるのかもしれない。

そういえば昔、マサイのおばあちゃんから「邪気を払う砂」と「悪いことが起こった時に割れる木肌の破片」を購入したことがあった。あれをもう一度買っておいたら良いだろうか。

あの「砂」と「木片」が、災いから私を守ってくれたのかは知れぬ。だが、私は今も元気に生きているので、然るべき時に何かしらの効力を発揮してくれていたのかもしれない。あのおばあちゃんの行方はわからないので、私もSNSで呪術師にコンタクトしてみようか・・・。


今回も読んでいただきありがとうございました。m(_ _)m

私は呪術についてあまり明るくないので、こういった研究の論文やおすすめの参考図書があればぜひ教えてください!(パン関係ないという・・・笑)